も、それに気がついた。そして二人の記者はドレゴの傍に膝をついた。
 ドレゴは知覚がなかった。水戸は烈しい不安に捉われた。彼はドレゴを仰向かせると、オーバーの胸をひろげ、服やチョッキの釦《ボタン》を引《ひ》き千切《ちぎ》るように外した。ワイシャツの下からドレゴの胸毛が見え出したときに、ドレゴは始めて呻り声をあげた。
「おお、気がついた。どうした。何かあったか」
「しっかりしろ、ドレゴ。何か物をいえ」
 二人の同僚は、心配と商売意識との両方に駆られ、ドレゴに顔を寄せた。その二人の鼻へ、ぷんぷんとアルコールの匂いが……。
「なあんだ、……」
「水はないか。目が廻ったんだ。咽喉がひりひりする」
「それだけか」
「おお水戸。異常現象らしいものが何か起ったね。どうだ」
「ふうん。冗談じゃないよ。てっきり君がその異常現象に喰われたと思ったんだ」
「莫迦をいえ。僕はそんなものに喰われるような間抜け男じゃない」
「いずれにしてもだ。こういうときはあまりアルコールを呑み過ぎるものじゃない。下手すれば脳溢血で、あの世へ急行だぞ」
「同感だ。水戸に同感」
 ホーテンス記者が、とどめを刺すようにいった。
 それを以てドレゴの卒倒事件は片付《かたづ》いた。彼は、大きな酔いが廻って来たところで不自然な緊張を我身に強いたのがよくなかったに違いない。さて、ワーナー博士の学者たちは、この間に何を探し当てたか。
「……」
 研究員たちは、林の如く静かであった。先刻以来、石のように固くなって微動だにしない様子だ。ドレゴの卒倒事件にさえ誰もが気がついていないと見える。
 ドレゴは起上って、隅っこの安楽椅子に自分の身体を投げこんだ。それをホーテンスの眼が抗議するように睨《にら》んだ。
「ホーテンス君。博士たちは何かを掴んだらしいね」
 と水戸は、彼の胸を引いた。
「うん。何を掴んだかな」
 そういったホーテンスは、つかつかと博士の傍へ歩み寄った。
「博士。何があったのですか、地震はどこに現われていますか」
「叱《し》ッ」
 博士は、ホーテンスの方へは振返らないで、自分の唇に人指し指をあてた。
「失礼しました……」
 ホーテンスは悪びれず謝罪してから、水戸の方へ手をあげて合図をした。
 水戸は肯いて、極度に足音を立てないように注意して、ホーテンスの傍へ寄った。
 何事も未だ起っていないようだ。だが、今《いま》正
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