話しあいたい。
この複雑な内容の生理電波が、彼等に理解されるかどうか、少し疑問があった。だが、それ以後においても、相手からの攻撃が起らないままに時刻が過ぎて行ったので、この信号は多分相手に理解されたことと思われた。
応答あり
城塞への距離が遂に千五百メートルにまで短縮したとき、俄かに艦内の受信器が働きだした。
――来たぞ。
――見える、見える。
――早くあれを破壊せよ。安全のために……。
――あいつらは、われわれに何かを尋ねたいといっているのだ。しばらく待った方がいい。
――何遍でもやって来るわ。
――叩き潰せ。
――いや、そっくり捉えた方がいい。
――慾張るとよくない。この前採収しただけで、十分だ。
――違った性別の生物が乗っている。あれをぜひ捕えて帰りたい。
エミリーのことをいっているらしい。エミリーはそんなことは知らないで、水戸の背中を後から抱えるようにしている。――怪人集団は、厚い綱鉄を透して艦内の様子を見る力を持っているようだ。
ワーナー博士は、艦の前方にある鋼鉄張りの窓を明けさせた。その窓のところにはテレビジョン送影機のレンズが取付けてあった。だから艦内の受影機に、近づく城塞の影が入って来た。
城塞の一部に、四角な明るい飾窓のようなものが開いていた。それはこの前に水戸が海底において認めたあの部屋らしかった。その飾窓の中には、大勢の怪人が顔をこっちへ向けて犇《ひしめ》き合《あ》っている姿が認められた。
――皆、中へ入れ。
怪人の中から、そういって叫んだ者があった。
――なぜ入るのか。
――これから大切な通信を相手へ送るんだ。さわぎ立てては困る。皆中へ入れ。
すると、飾窓のようなところへ犇き合っていた大勢の怪人たちは、ぞろぞろと、うち連れ合って、部屋を出ていった。そして後には、一人の怪人だけが残った、奇妙な器械の立ち並ぶ間に……。
アンダーソン教授とワーナー博士は、互いに身体をぴったり寄せ合い、前方を凝視している。映写幕面の上に、例の一人の怪人がやはりじっとこっちを睨《にら》んでいる。その奇妙醜怪な顔――エミリーはそれを覗いた瞬間、はげしい嘔吐を催した。水戸が愕いて、身体の向きを横にかえると、彼女を抱えてやった。
エミリーは水戸にしがみついて、歯をぎりぎりいわせた。
――停れ。停れ。
怪人が信号を出した。
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