しゅくしゅく》とした大西洋を南下し、怪人集団の蟠居《ばんきょ》する水域に近づいていった。やがて集団城塞の手前十キロメートルのところから潜航に移った。
 深度三十メートルまで降りると、艦は水平に直った。水中レーダーは、完全に城塞の位置を捉えていた。艦は直進する。
 それから暫くして、アンダーソン教授の手によって、いよいよ生理電波で変調された超音波が城塞へ向けて発射された。これは、
 ――尋ねたいことがある。
 という呼びかけの思想を現わしているものだった。これは十秒に一回の割合で発射された。それと共に、怪人集団から応答があるかと、受音装置が広汎な幅を持って相手の信号を探し続けた。
 だが、何の応答もなかった。
 その日別途に約二百台の集電器が怪人城塞の周囲に投下された。この集電器は城塞の近くに落ちて、怪人たちの発する生理電波を吸収し、そしてそれを水上に浮かんでいるアンテナを通じて放送させ、それをグリーンランド[#「グリーンランド」は底本では「グリーランド」、64−上段−17]の海岸無電局が受信することになっていた。そして更にそれは局より超音波に変えて水中へ放送され、当然ウラル号へも届くことになっていた。ところが、これがうまく行かなかった。そのわけは、怪人集団の警戒心はいよいよ鋭くなって、城塞附近に投下される物に対して監視を怠らず、水面から落ちて来たものは城塞に達するまでに片端から爆破していたからであった。
 ウラル号の使節団は、それに拘《かかわ》らず失望することなく、“尋ねたいことがある”旨の信号を発射し続けつつ、ひたむきに前進していった。
 ウラル号が怪人集団の城塞の手前五キロのところに達したとき、突然艦は真正面より猛烈な外力をうけた。それは怪人集団の城塞よりの攻撃に違いなかった。もしこれが普通の構造を持った潜水艦なら、立ちどころに火の塊と化し去る筈であった。だがわがウラル号の場合はそうはならず、そのまま海中を後方へ一キロばかり押し返された――というよりも叩き飛ばされたのだった。
 もしワーナー博士をはじめ乗組員たちが、緩衝帽衣をつけていなかった[#「いなかった」は底本では「いなかったら」、94−下段−13]としたら、彼等はこの激しい衝撃によって、頭部を壁にぶっつけて石榴《ざくろ》のように割られ、肋骨も四肢の骨もぽきぽき折られてしまったことであろう。だがかのゼムリヤ
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