して全力をあげて真相の追求にかかった。
「一体このニュースを初めに出したのは、どこの誰だい」
「それがおかしいのだ。今日の十一時にWGY局が短波で呼出され、あの第一報が伝えられたんだそうな。WGY局ではおどろいて政府当局に連絡して、真偽のほどを質問した。すると政府のスポークスマンは、それを否定もしないし、また肯定もしないと回答した。ところで、それではあの通信に幾分の真相が含まれているものと見なし、正午に全世界へ報道したというわけだそうだぜ」
「ちょっと妙だよ。政府のその態度は。当局の意向《いこう》として云々という文句があるのに、それを否定も肯定もしないというのは……」
「だからね。僕の考えじゃあ、政府当局はあの事件についてまだ調査中なんじゃないかね。調査中だから確かなことはいえない。だがともかくもああいう事件は事実存在する。そこであんな態度に出たと思うね」
「まあ、その辺だろう。と、われわれはもっと真相を知らねばならない。さあ、そうなるとどこから入り込むか」
「発信者の所在を早く探出すことだね」
 と別の記者が口をはさんだ。
「いや、それよりはワーナー博士一行の所在地へ飛び込むことだ」
「それは出来ないんじゃないか。まさか、大西洋の海底まで下りて行くことは出来ないだろう」
「遭難し全滅したというんだから、仕様がないじゃないか」
 別の記者がいった。
「ところがね、僕は博士一行が全部死に絶えたとは思わない。全滅とは必ずしも全部が死んでしまったという意味じゃない。死ぬか、さもなければ怪我をするかして、満足に動ける者がなくなりゃ、これをやっぱり全滅と報道していいんだ。だから皆死んだとは断定できない」
「しかしねえ……」
「まあ、待てよ。それにだ、もし博士一行が海底で全部死んだものなら、海底に怪人集団を発見したことを報告できやしないよ。われわれの場合は、ちゃんとそれを報告しているんだ。しかも吾人の想像に絶する巨大なる力を有するものだとか“性情|頗《すこぶ》る険呑《けんのん》なるもの”などと相当深い観察までが伝えられている。おまけに今後の調査団の強化までが決定されているじゃないか。そして、“全世界に有史以来の大恐慌が起るであろう”などと相当責任のある予想をつけ加えている。これらのことを考え合わすと、ワーナー博士の一行が全部海底で死滅したんでは、こんなしっかりしたことは報道でき
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