ないと思う。恰も猿対人間、いやそれ以上に知能の差があるのではないか。さあ、そういう場合、劣等なるわれら地球人類は一体何をなし得るだろうか」
「何という淋しいことでしょう」
水戸記者は大きく溜息をついた。
「絶対無抵抗の外《ほか》なしだ。絶対服従だ。わが地球全土は、われら地球人類もひっくるめて、彼らの意のままに従わなければならないのだ」
「ああ、何という恐しいことでしょう。僕はそういう局面にめぐり合いたくない」
「が、それが、やがてわれら地球人類の迎えなければならない運命なんだ。好むと好まざるとに拘《かかわ》らず……」
「博士。ちょっと待って下さい。博士が今おっしゃっていることは予想です。それは夢です。われら[#「われら」は底本では「わられ」、67−上段−18]はまだ、何も現実に彼らによって征服されたわけでない。新しいコロンブスの船らしいものが今この海底に来ていることは来ているようですが、彼らはまだほんのちょっぴりの交渉を持っているだけです」
「だが、それは、疑問に包まれた恐ろしき運命の第一頁が開かれたることを意味する」
「でも、先生。われらのやり方一つで、その新しいコロンブスと平和的な交際を取結ぶことが出来るんではないかと思うんですがね」
「それはねえ水戸君。それは希望的観測というもんだよ。われわれは優れた者の持つ力の働く範囲と程度とを冷静に観測し、そして最悪の場合を予想して置かねばならない。何しろわれわれ地球人類の間には、地球外の生物を迎えるための用意が少しもなされていない事実に、深く思いをせねばならない」
「そうでもありましょうが、われわれは努力によって好転させる可能性があるように思うんですがね。地球の全人類が共に血のつづいた同胞である如く、全宇宙の生物の間にも、当代同胞としての自覚が樹てられる筈、だから仲よく手を握りあえないことはないと思うんですがねえ」
「それはそうだが……」
「全宇宙のどこの隅にも不幸な者があってはならないのです。そういう不幸な一部があるということは、所詮宇宙の不幸なんですからねえ。この理屈は、如何なる時代にも、如何なる相手にも納得されることだと思うんですがねえ」
「水戸君。君のその信念は正しいと思う。そして君の熱情が、われわれが今怯えている影を吹き払って、われわれを不幸から救ってくれることを祈る」
「ええ、こうなったら、僕は一身を投げて
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