ある。青髪山には昔から魔神《まじん》がすんでいるという話で、そこへ入った者は無事に里へもどれないそうだ。猟師だって、どんないい獲物を追っていても、その青髪山には近づきはしない。
 そのような怪山の雪の下に穴を掘って観測を始めた一造兄さんが、誰にも語るなと命令したのはもっともだ。しかし一造さんは勇気がある。それはともかくあの奥深い青髪山まで、丈余《じょうよ》の雪を踏んで三日ごとに兄のため食物をはこぶ友の身の上を考えると、気の毒でならなかった。
 そのとき五助は、さらに彦太の方へすり寄っていった。
「実はね、一造兄さんはね、この冬こそ、青髪山の魔神の正体をつきとめてくれると、はりきっているんだよ」
「魔神の正体をだって。しかしそんな器械で魔神の正体が分るだろうか。第一、あの山に魔神がすんでいるなどというのは伝説なんだろう。誰もほんとうに見た者はないんだから……」
 彦太がそういうと、何思ったか五助は友の腕をしっかりつかみ、耳に口をあてた。
「ところがね、彦くん、魔神は実際あの山に居るんだよ」
「うそだよ、そんなこと」
「だって……だって見たんだよ、この僕が!」
「ええっ、君が魔神を見たって
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