ポも最も早くなるのは自然の道理である。
 此の原則は能のすべての表現を支配する。一番の能を演じる時も此の原則で行はれ、一部の詞章を表現するにも此の原則で行はれ、また一聯の番組(例へば五番立の演能)を上演する場合にも此の原則以外にそれを支配すべき法則はない。
 例へば「高砂《たかさご》」を演じるとする。初めにワキ・ワキヅレが次第《しだい》の囃子で登場して一定の場所に着座するまでは序の部分であるから、これは粘らずにサラリと運ばねばならぬ。次に一声《いつせい》の囃子でシテ・シテヅレが登場して一定の場所に達する所はすでに破の部分に入つたのである(破の第一段)から、ワキ・ワキヅレの登場よりもずつと位を持つて、表現も細やかになり、それだけテンポも緩くなつてよい。次にワキとシテ・シテヅレの問答が始まつて初同(最初の同吟)の終るまで(破の第二段)は、同じ調子のつづきではあるけれども、まだその次に主要な部分が控へてゐるので、テンポも緩くなり過ぎてはならない。次のクリ・サシ・クセからロンギの終りまで(破の第三段)は全曲の最も主要な部分であり、表現も入念に、従つてテンポも緩くなつてよい。(といつても此の曲は
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