は上付き小文字] man yt[#「t」は上付き小文字] spares thes stones,
And curst be he yt[#「t」は上付き小文字] moves my bones.
よき友よ、イエスのために忍んで、ここに封じられたる屍《しかばね》を掘る勿れ。この石に触れざる人は恵まれてあれ、わが骨を動かす者は咀われてあれ。
[#ここで字下げ終わり]
此の咀いの文句がなかったら、詩人の遺骨は或いは墓掘男の鋤にかかって骨寄倉《こつよせぐら》に投げ込まれたかも知れなかったのだが、詩人はそれを恐れてこういう文句を書いたのだろう、と、ウィリアム・ホールという人がシェイクスピアの死後七十七年目に此の墓を訪うてそう書いている。『ハムレット』の墓掘の場面で、ヨリックの頭蓋骨を投げ出した墓掘男の無知と無作法をば彼はよく知っていた筈である。墓穴を十七尺の深さまで掘り下げたのも、墓掘の無作法を恐れた詩人の遺志に因るものだといわれている。ヨリックの遺骨は二十六年目に掘り出されたけれども、幸いにしてわれわれの詩人の遺骨は爾来三百二十三年間一度も冒涜を受けなかった。妻や娘たちは、その中に一緒に埋めてもらいたいといったけれども、その時でさえ蔽いの石は動かされなかった。彼等の墓はシェイクスピアと並んで聖壇《チャンセル》に設けられ、ホーソーンの言葉を借用すれば、一家打ち揃って「教会の提供する最上の場所」を占有している。以前に此の教会第一の保護者であったサー・ヒュー・クロプトンの記念像でさえ側堂の片隅に置かれてあるに過ぎないのに。
しかし、それを以って早計にもストラトフォードの教会がシェイクスピアの詩才に敬意を表したものと思ってはいけない。今日でこそシェイクスピアといえば、世界最大の劇詩人といわれるけれども、彼は生前にそういった名誉を楽しむことはできなかった。死後といえども二百年間はそれほどの尊敬は払われなかった。それにも拘わらず教会堂内部の最上の位置を獲得したのは、彼が芝居の興行で金を儲けて、郷里に引退する六年前、大枚四百四十ポンドを投げ出して教区の十分一税《タイス》の権利を買い取って置いたからに相違ない。
詩人の記念像は墓の上の壁に高く取り付けられてステインド・グラスを通す陽光を浴びているが、石造の半身像が彩色[#「彩色」は底本では「色彩」]されてあるのは感心できない。伝うる所に
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