その上を踏まざるさきに、我は垂直にして登るあたはざるまはりの岸の 二八―三〇
純白の大理石より成り、かのポリクレートのみならず、自然もなほ恥づるばかりの彫刻《ほりもの》をもて飾らるゝをみたり 三一―三三
天を開きてその長き禁《いましめ》を解きし平和(許多《あまた》の年の間、世の人泣いてこれを求めき)を告げしらせんとて地に臨める天使の 三四―三六
うるはしき姿との處に刻《きざ》まれ、ものいはぬ像と見えざるまで眞に逼りて我等の前にあらはれぬ 三七―三九
誰か彼が幸《さち》あれ[#「あれ」に白丸傍点]といひゐたるを疑はむ、そは尊き愛を開かんとて鑰を※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]《まは》せる女の象《かたち》かしこにあらはされたればなり 四〇―四二
しかして神[#「神」に白丸傍点]の婢《はしため》を見よ[#「見よ」に白丸傍点]といふ言葉、あたかも蝋に印影《かた》の捺《お》さるゝごとくあざやかにその姿に摺《す》られき 四三―四五
汝思ひを一の處にのみ寄する勿れ。人の心臟《こゝろ》のある方《かた》に我をおきたるうるはしき師斯くいへり 四六―四八
我即ち目をめぐらして見しに、マリアの後方《うしろ》、我を導ける者のゐたるかなたに 四九―五一
岩に彫りたる他《ほか》の物語ありき、このゆゑに我はこれをわが目の前《さき》にあらしめんとてヴィルジリオを超えて近づきぬ 五二―五四
そこには同じ大理石の上に、かの聖なる匱《はこ》を曳きゐたる事と牛と刻《きざ》まれき(人この事によりて委《ゆだ》ねられざる職務《つとめ》を恐る) 五五―五七
その前には七の組に分たれし民見えたり、彼等はみなわが官能の二のうち、一に否と一に然り歌ふといはしむ 五八―六〇
これと同じく、わが目と鼻の間には、かしこにゑりたる薫物《たきもの》の煙について然と否との爭ひありき 六一―六三
かしこに謙遜《へりくだ》れる聖歌の作者|衣《きぬ》ひき※[#「寨」の「木」に代えて「衣」、第3水準1−91−84]《かゝ》げて亂れ舞ひつゝ恩惠《めぐみ》の器《うつは》にさきだちゐたり、この時彼は王者《わうじや》に餘りて足らざりき 六四―六六
對《むかひ》の方《かた》には大いなる殿《との》の窓の邊《ほとり》にゑがかれしミコル、蔑視《さげすみ》悲しむ女の如くこれをながめぬ 六七―六九
我わが立てる處をはなれ、ミコルの後方《うしろ》に白く光れる一の物語をわが近くにみんとて足をはこべば 七〇―七二
こゝには己が徳によりてグレゴーリオを動かしこれに大いなる勝利《かち》をえしめしローマの君の榮光高き事蹟を寫せり 七三―七五
わが斯くいへるは皇帝トラヤーノの事なり、ひとりの寡婦《やもめ》涙と憂ひを姿にあらはし、その轡のほとりに立てり 七六―七八
君のまはりには多くの騎馬武者|群《むら》がりて押しあふごとく、またその上には黄金《こがね》の中なる鷲風に漂《たゞよ》ふごとく見えたり 七九―八一
すべてこれらの者のなかにてかの幸《さち》なき女、主よわがためにわが子の仇を報いたまへ、彼死にてわが心いたく傷《いた》むといひ 八二―八四
彼はこれに答へて、まづわが歸るまで待てといふに似たりき、また女、あたかも歎きのために忍ぶあたはざる人の如く、我主よ 八五―八七
若し歸り給はずばといひ、彼、我に代る者汝の爲に報いんといひ、女又、汝己の爲すべき善を思はずば人善を爲すとも汝に何の係《かゝはり》在らん 八八―
といひ、彼聞きて、今は心を安んぜよ、我わが義務《つとめ》を果して後行かざるべからず、正義これを求め、慈悲我を抑《と》むといふに似たりき ―九三
未だ新しき物を見しことなきもの、この見るをうべき詞を造りたまへるなり、こは世にあらざるがゆゑに我等に奇《めづら》し 九四―九六
かく大いなる謙遜を表はしその造主《つくりぬし》の故によりていよ/\たふときこれらの象《かたち》をみ、われ心を喜ばしゐたるに 九七―九九
詩人さゝやきていふ。見よこなたに多くの民あり、されどその歩《あゆみ》は遲し、彼等われらに高き階《きざはし》にいたる路を教へむ。 一〇〇―一〇二
眺《なが》むることにのみ凝《こ》れるわが目も、その好む習ひなる奇《めづら》しき物をみんとて、たゞちに彼の方《かた》にむかへり 一〇三―一〇五
讀者よ、げに我は汝が神何によりて負債《おひめ》を償はせたまふやを聞きて己の善き志より離るゝを願ふにあらず 一〇六―一〇八
心を苛責の状態《ありさま》にとむるなかれ、その成行《なりゆき》を思へ、そのいかにあしくとも大なる審判《さばき》の後まで續かざることを思へ 一〇九―一一一
我曰ふ。師よ、こなたに動くものをみるに姿人の如くならず、されどわが目迷ひて我その何なるを知りがたし。 一一二―一一四
彼我に。苛責の重荷《おもに》彼等を地に屈《かゞ》ま
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