彼もさきに心をとめざりしものなりき 一〇〇―一〇二
我等かしこに歩めるに、そこには岩の後《うしろ》なる蔭に息《いこ》へる群《むれ》ありてそのさま怠惰《おこたり》のため身を休むる人に似たりき 一〇三―一〇五
またそのひとりはよわれりとみえ、膝を抱いて坐し、顏を低くその間に垂れゐたり 一〇六―一〇八
我曰ふ。あゝうるはしきわが主、彼を見よ、かれ不精《ぶせい》を姉妹とすともかくおこたれるさまはみすまじ。 一〇九―一一一
この時彼我等の方《かた》に對ひてその心をとめ、目をたゞ股《もゝ》のあたりに動かし、いひけるは。いざ登りゆけ、汝は雄々《をゝ》し。 一一二―一一四
我はこのときその誰なるやをしり、疲れ今もなほ少しくわが息《いき》をはずませしかど、よくこの障礙《しやうげ》にかちて 一一五―一一七
かれの許《もと》にいたれるに、かれ殆んど首《かうべ》をあげず、汝は何故に日が左より車をはするをさとれりやといふ 一一八―一二〇
その無精《ぶせい》の状《さま》と短き語《ことば》とは、すこしく笑《ゑみ》をわが唇にうかばしむ、かくて我曰ふ。ベラックヮよ、我は今より 一二一―
また汝のために憂へず、されど告げよ、汝何ぞこゝに坐するや、導者を待つか、はたたゞ汝の舊《ふ》りし習慣《ならひ》に歸れるか。 ―一二六
彼。兄弟よ、登るも何の益かあらむ、門に坐する神の鳥は、我が苛責をうくるを許さざればなり 一二七―一二九
われ終りまで善き歎息《なげき》を延べたるにより、天はまづ門の外《そと》にて我をめぐる、しかしてその時の長さは世にて我をめぐれる間と相等し 一三〇―一三二
若し恩惠《めぐみ》のうちに生くる心のさゝぐる祈り(異祈《あだしいのり》は天聽かざれば何の效《かひ》あらむ)、これより早く我を助くるにあらざれば。 一三三―一三五
詩人既に我にさきだちて登りていふ。いざ來れ、見よ日は子午線に觸れ、夜は岸邊《きしべ》より 一三六―一三八
はやその足をもてモロッコを覆《おほ》ふ。
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   第五曲

我既にかの魂等とわかれてわが導者の足跡《あしあと》に從へるに、このとき一者《ひとり》、後方《うしろ》より我を指ざし 一―三
叫びていふ。見よ光下なるものの左を照さず、彼があたかも生者のごとく歩むとみゆるを。 四―六
我はこの言《ことば》を聞きて目をめぐらし、彼等のあやしみてわれひとり、ただわれひ
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