の事をなしたりき 三七―三九
わが後《うしろ》に砂を踏みくだく者はその名上の世に稱《たゝ》へらるべきテッギアイオ・アルドブランディなり 四〇―四二
また彼等と共に十字架にかゝれる我はヤーコポ・ルスティクッチといへり、げに萬《よろづ》の物にまさりてわが猛き妻我に禍す 四三―四五
我若し火を避くるをえたりしならんには身を彼等の中に投げ入れしなるべく思ふに師もこれを許せるなるべし 四六―四八
されど焦され燒かるべき身なりしをもて、彼等を抱かんことを切《せち》に我に求めしめしわが善き願ひは恐れに負けたり 四九―五一
かくて我曰ひけるは、汝等の状態《さま》はわが衷《うら》に侮りにあらで大いなる俄に消え盡し難き憂ひを宿せり 五二―五四
こはこれなる我主の言《ことば》によりてわが汝等の如き民來るをしりしその時にはじまる 五五―五七
我は汝等の邑《まち》の者なり、常に心をとめて汝等の行《おこなひ》と美名《よきな》をかたり且つきけり 五八―六〇
我は膽《ゐ》を棄て眞《まこと》の導者の我に約束したまへる甘き實をえんとてゆくなり、されどまづ中心《たゞなか》までくだらではかなはじ 六一―六三
この時彼答ふらく、ねがはくは魂ながく汝の身をみちびき汝の名汝の後に輝かんことを 六四―六六
請ふ告げよ、文と武とは昔の如く我等の邑《まち》にとゞまるや、または廢れて跡なきや 六七―六九
そはグイリエールモ・ボルシエーレとて我等と共に苦しむ日淺くいまかなたに侶とゆく者その言《ことば》によりていたく我等を憂へしむ 七〇―七二
新《あらた》なる民|不意《おもはざる》の富は、フィオレンツァよ、自負と放逸を汝のうちに生み、汝は既に是に依りて泣くなり 七三―七五
われ顏を擧げて斯くよばゝれるに、かの三者《みたり》これをわが答と知りて互に面《おもて》を見あはせぬ、そのさま眞《まこと》を聞きて人のあひ見る如くなりき 七六―七八
皆答へて曰ひけるは、かく卑しき價をもていづれの日にかまた人の心をたらはすをえば、かく心のまゝに物言ふ汝は福《さいはひ》なるかな 七九―八一
此故に汝これらの暗き處を脱れ、再び美しき星を見んとて歸り、我かしこにありきと喜びていふをうる時 八二―八四
ねがはくは我等の事を人々に傳へよ、かくいひてのち輪をくづしてはせゆきぬ、その足|疾《と》きこと翼に似たりき 八五―八七
彼等は忽ち見えずなりにき、アーメンもかくはやくは唱へえざりしなるべし、されば師もまた去るをよしと見たまへり 八八―九〇
我彼に從ひて少しく進みゆきたるに、この時水音いと近く、たとひ我等語るとも聲聞ゆべくはあらざりき 九一―九三
モンテ・ヴェーゾの東にあたりアペンニノの左の裾より始めて己の路をわしり 九四―九六
その高處にありて未だ低地にくだらざる間アクアケータと呼ばれ、フォルリにいたればこの名を空しうする川の 九七―九九
たゞ一落《ひとおち》に落下りて千を容るべきサン・ベネデット・デル・アルペの上に轟く如く 一〇〇―一〇二
かの紅の水はほどなく耳をいたむるばかりに鳴渡りつゝ一の嶮しき岸をくだれり 一〇三―一〇五
我は身に一筋の紐を卷きゐたり、嘗てこれをもて皮に色ある豹をとらへんと思ひしことありき 一〇六―一〇八
われ導者の命に從ひてこと/″\くこれを解き、結び束《たば》ねて彼にわたせり 一〇九―一一一
彼乃ち右にむかひ、少しく縁《ふち》より離してこれをかの深き溪間に投入れぬ 一一二―一一四
我謂へらく、師斯く目を添へたまふ世の常ならぬ相圖には、應ふるものもまた必ず世の常ならぬものならむと 一一五―一一七
あゝたゞ行ひを見るのみならで、その智よく衷《うち》なる思ひをみる者と共にある人心を用ふべきこといかばかりぞや 一一八―一二〇
彼我に曰ふ、わが待つものたゞちに上《のぼ》り來るべし、汝心に夢みるものたゞちに汝にあらはるべし 一二一―一二三
夫れ僞《いつはり》の顏ある眞《まこと》については人つとめて口を噤むを善しとす、これ己に咎なくしてしかも恥を招けばなり 一二四―一二六
されど我今默し難し、讀者よ、この喜劇《コメディア》の詞によりて(願はくは世の覺《おぼえ》ながく盡きざれ)誓ひていはむ 一二七―一二九
我は濃き暗き空氣の中にいかなる堅き心にもあやしとなすべき一の象《かたち》の泳ぎつゝ浮び來るを見たり 一三〇―一三二
そのさまたとへば岩または海にかくるゝほかの物よりこれを攫める錨を拔かんとをりふしくだりゆく人の 一三三―一三五
身を上にひらき足は窄《すぼ》めて歸る如くなりきと 一三六―一三八
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   第十七曲

尖れる尾をもち山を越え垣と武器《うちもの》を毀つ獸を見よ、全世界を穢すものを見よ 一―三
わが導者かく我にいひ、さて彼に示して踏來れる石の端《はし》近く岸につかしむ 四―六
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