三
子の慈愛《いつくしみ》、老いたる父の敬ひ、またはペネローペを喜ばしうべかりし夫婦《めをと》の愛すら 九四―九六
世の状態《さま》人の善惡を味はひしらんとのわがつよきねがひにかちがたく 九七―九九
我はたゞ一艘の船をえて我を棄てざりし僅かの侶《とも》と深き濶き海に浮びぬ 一〇〇―一〇二
スパニア、モロッコにいたるまで彼岸をも此岸をも見、またサールディニア島及び四方この海に洗はるゝほかの島々をもみたり 一〇三―一〇五
人の越ゆるなからんためエルクレが標《しるし》をたてしせまき口にいたれるころには 一〇六―
我も侶等もはや年老いておそかりき、右にはわれシビリアをはなれ左には既にセッタをはなれき ―一一一
我曰ふ、あゝ千萬《ちよろづ》の危難《あやふき》を經て西にきたれる兄弟|等《たち》よ、なんぢら日を追ひ 一一二―
殘るみじかき五官の覺醒《めざめ》に人なき世界をしらしめよ、汝等|起原《もと》をおもはずや
汝等は獸のごとく生くるため造られしものにあらず、徳と知識を求めんためなり ―一二〇
わがこの短き言《ことば》をきゝて侶は皆いさみて路に進むをねがひ、今はたとひとゞむとも及び難しとみえたりき 一二一―一二三
かゝれば艫《とも》を朝にむけ、櫂を翼として狂ひ飛び、たえず左に舟を寄せたり 一二四―一二六
夜は今南極のすべての星を見、北極はいと低くして海の床《ゆか》より登ることなし 一二七―一二九
我等難路に入りしよりこのかた、月下の光|五度《いつたび》冴え五度消ゆるに及べるころ 一三〇―一三二
かなたにあらはれし一の山あり、程遠ければ色薄黒く、またその高さはわがみし山のいづれにもまさるに似たりき 一三三―一三五
我等は喜べり、されどこの喜びはたゞちに歎きに變れり、一陣の旋風新しき陸《くが》より起りて船の前面《おもて》をうち 一三六―一三八
あらゆる水と共に三度《みたび》これに旋《めぐ》らし四度《よたび》にいたりてその艫《とも》を上げ舳《へさき》を下せり(これ天意《みこゝろ》の成れるなり) 一三九―一四一
遂に海は我等の上に閉ぢたりき 一四二―一四四
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第二十七曲
語りをはれるため、焔はすでに上にむかひて聲なく、またやさしき詩人の許しをうけてすでに我等を離れし時 一―三
その後《うしろ》より來れるほかの焔あり、不律の音を中より出して我等の目をその尖《さき》にむけしめき 四―六
たとへばシチーリアの牡牛が(こは鑢《やすり》をもて己を造れる者の歎きをその初聲《はつごゑ》となせる牛なり、またかくなせるや好し) 七―九
苦しむ者の聲によりて鳴き、銅《あかがね》の器《うつは》あたかも苦患《なやみ》に貫かるゝかと疑はれし如く 一〇―一二
はじめは火に路も口もなく、憂ひの言《ことば》かはりて火のことばとなれるも 一三―一五
遂に路をえて登り尖《さき》にいたれる時、こゝにその過ぐるにのぞみて舌よりうけし動搖《ゆるぎ》を傳へ 一六―一八
いひけるは、わが呼ぶ者よ、またいまロムバルディアの語にていざゆけ我また汝を責めずといへる者よ 一九―二一
我おくれて來りぬとも請ふ止まりて我とかたるを厭ふなかれ、わが燃ゆれどもなほ之を厭はざるを見よ 二二―二四
汝若しわが持來れるすべての罪を犯せる處、かのうるはしきラチオの國よりいまこの盲《めしひ》の世に落ちたるならば 二五―二七
ローマニヤ人《びと》のなかに和ありや戰ひありや我に告げよ、我はウルビーノとテーヴェレの源なる高嶺《たかね》との間の山々にすめる者なればなり 二八―三〇
我はなほ心を下にとめ身をまげゐたるに、導者わが脇に觸れ、汝語るべしこれラチオの者なりといふ 三一―三三
この時既にわが答成りければ我ためらはずかたりていふ、下にかくるゝたましひよ 三四―三六
汝のローマニヤには今も昔の如く暴君等の心の中に戰ひたえず、たゞわが去るにあたりて顯著《あらは》なるものなかりしのみ 三七―三九
ラヴェンナはいまも過ぬる幾年《いくとせ》とかはらじ、ポレンタの鷲これを温《あたゝ》め、その翼をもてさらにチェルヴィアを覆ふ 四〇―四二
嘗て長き試みに耐へ、フランス人《びと》の血染めの堆《つか》を築ける邑《まち》は今緑の足の下にあり 四三―四五
モンターニアを虐《しひた》げし古き新しきヴェルルッキオの猛犬《あらいぬ》は舊《もと》の處にゐてその齒を錐《きり》とす 四六―四八
夏より冬に味方を變ふる白巣《しろす》の小獅子はラーモネとサンテルノの二の邑《まち》を治む 四九―五一
またサーヴィオに横を洗はるゝものは野と山の間にあると等しく暴虐と自由の國の間に生く 五二―五四
さて我こゝに汝に請ふ、我等に汝の誰なるやを告げよ、人にまさりて頑ななるなかれ、(かくて願はくは汝の名世に秀でんことを) 五五―五七
火はその習ひに
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