れば憂ひの都あり、我を過ぐれば永遠《とこしへ》の苦患《なやみ》あり、我を過ぐれば滅亡《ほろび》の民あり 一―三
義は尊きわが造り主《ぬし》を動かし、聖なる威力《ちから》、比類《たぐひ》なき智慧、第一の愛我を造れり 四―六
永遠《とこしへ》の物のほか物として我よりさきに造られしはなし、しかしてわれ永遠に立つ、汝等こゝに入るもの一切の望みを棄てよ 七―九
われは黒く録《しる》されしこれらの言《ことば》を一の門の頂に見き、この故に我、師よ、かれらの意義我に苦し 一〇―一二
事すべてあきらかなる人の如く、彼我に、一切の疑懼一切の怯心ここに棄つべく滅ぼすべし 一三―一五
我等はいま智能の功徳《くどく》を失へる憂ひの民をみんとわがさきに汝に告げしところにあるなり 一六―一八
かくて氣色《けしき》うるはしくわが手をとりて我をはげまし、我を携へて祕密の世に入りぬ 一九―二一
ここには歎き、悲しみの聲、はげしき叫喚、星なき空《そら》にひゞきわたれば、我はたちまち涙を流せり 二二―二四
異樣の音《おん》、罵詈《のゝしり》の叫び、苦患《なやみ》の言《ことば》、怒りの節《ふし》、強き聲、弱き聲、手の響きこれにまじりて 二五―二七
轟動《どよ》めき、たえず常暗《とこやみ》の空をめぐりてさながら旋風吹起る時の砂のごとし 二八―三〇
怖れはわが頭《かうべ》を卷けり、我即ちいふ、師よわが聞くところのものは何ぞや、かく苦患《なやみ》に負くるとみゆるは何の民ぞや 三一―三三
彼我に、この幸《さち》なき状《さま》にあるは恥もなく譽もなく世をおくれるものらの悲しき魂なり 三四―三六
彼等に混《まじ》りて、神に逆《さから》へるにあらず、また忠なりしにもあらず、たゞ己にのみ頼れるいやしき天使の族《むれ》あり 三七―三九
天の彼等を逐へるはその美に虧くる處なからんため、深き地獄の彼等を受けざるは罪ある者等これによりて誇ることなからんためなり 四〇―四二
我、師よ、彼等何を苦しみてかくいたく歎くにいたるや、答へていふ、いと約《つゞま》やかにこれを汝に告ぐべし 四三―四五
それ彼等には死の望みなし、その失明の生はいと卑しく、いかなる分際《きは》といへどもその嫉みをうけざるなし 四六―四八
世は彼等の名の存《のこ》るをゆるさず、慈悲も正義も彼等を輕んず、我等また彼等のことをかたるをやめん、汝たゞ見て過ぎよ 四九―五一
われ目をさだめて見しに一旒の旗ありき、飜り流れてそのはやきこと些《すこし》の停止《やすみ》をも蔑視《さげす》むに似たり 五二―五四
またその後方《うしろ》には長き列を成して歩める民ありき、死がかく多くの者を滅ぼすにいたらんとはわが思はざりしところなりしを 五五―五七
われわが識れるものゝ彼等の中にあるをみし後、心おくれて大事を辭《いな》めるものゝ魂を見知りぬ 五八―六〇
われはたゞちに悟《さと》りかつ信ぜり、こは神にも神の敵にも厭はるゝ卑しきものの宗族《うから》なりしを 六一―六三
これらの生けることなき劣れるものらはみな裸のまゝなりき、また虻あり蜂ありていたくかれらを刺し 六四―六六
顏に血汐の線をひき、その血の涙と混れるを汚らはしき蟲|足下《あしもと》にあつめぬ 六七―六九
われまた目をとめてなほ先方《さき》を望み、一の大いなる川の邊《ほとり》に民あるをみ、いひけるは、師よねがはくは 七〇―七二
かれらの誰なるや、微《かすか》なる光によりてうかゞふに彼等渡るをいそぐに似たるは何の定《さだめ》によりてなるやを我に知らせよ 七三―七五
彼我に、我等アケロンテの悲しき岸邊に足をとゞむる時これらの事汝にあきらかなるべし 七六―七八
この時わが目恥を帶びて垂れ、われはわが言《ことば》の彼に累をなすをおそれて、川にいたるまで物言ふことなかりき 七九―八一
こゝに見よひとりの翁《おきな》の年へし髮を戴きて白きを、かれ船にて我等の方に來り、叫びていひけるは、禍ひなるかな汝等惡しき魂よ 八二―八四
天を見るを望むなかれ、我は汝等をかなたの岸、永久《とこしへ》の闇の中熱の中氷の中に連れゆかんとて來れるなり 八五―八七
またそこなる生ける魂よ、これらの死にし者を離れよ、されどわが去らざるをみて 八八―九〇
いふ、汝はほかの路によりほかの港によりて岸につくべし、汝の渡るはこゝにあらず、汝を送るべき船はこれよりなほ輕し 九一―九三
導者彼に、カロンよ、怒る勿れ、思ひ定めたる事を凡て行ふ能力《ちから》あるところにてかく思ひ定められしなり、汝また問ふこと勿れ 九四―九六
この時目のまはりに炎の輪ある淡黒《うすぐろ》き沼なる舟師《かこ》の鬚多き頬はしづまりぬ 九七―九九
されどよわれる裸なる魂等はかの非情の言《ことば》をきゝて、たちまち色をかへ齒をかみあわせ 一〇〇―一〇二
神、親、人および
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