たゞ洗禮《バッテスモ》を受けず信仰に入らずして死《し》ぬるあらんに、かゝる人を罰する正義いづこにありや、彼信ぜざるもその咎《とが》將《はた》いづこにありやと 七六―七八
抑※[#二の字点、1−2−22]《そも/\》汝は何者なれば一|布指《スパンナ》の先をも見る能はずして席に着き、千|哩《ミーリア》のかなたを審《さば》かんと欲するや 七九―八一
聖書汝等の上にあらずば、げに我とともに事を究めんとつとむる者にいたく疑ふの事由《いはれ》はあらむ 八二―八四
あゝ地上の動物よ、愚《おろか》なる心よ、それおのづから善なる第一の意志は、己即ち至上の善より未だ離れしことあらじ 八五―八七
凡て物の正しきはこれと和するの如何による、造られし善の中これを己が許に引く物一だになし、この善光を放つがゆゑにかの善生ず。 八八―九〇
餌を雛に與へ終りて鸛《こふづる》巣の上をめぐり、雛は餌をえてその母を視るごとく 九一―九三
いと多き議《はからひ》に促《うなが》されてかの福なる象《かたち》翼を動かし、また我はわが目を擧げたり 九四―九六
さてめぐりつゝ歌ひ、かつ曰ふ。汝のわが歌を解《げ》せざる如く、汝等人間は永遠《とこしへ》の審判《さばき》をげせじ。 九七―九九
ローマ人《びと》に世界の崇《あがめ》をうけしめし徴號《しるし》をばなほ保ちつゝ、聖靈の光る火しづまりて後 一〇〇―一〇二
かの者またいふ。クリストが木に懸《か》けられ給ひし時より前にも後にも彼を信ぜざりし人の、この國に登り來れることなし 一〇三―一〇五
されど見よ、クリスト、クリストとよばゝる人にて、審判《さばき》のときには、クリストを知らざる人よりも遠く彼を離るべき者多し 一〇六―一〇八
かゝる基督教徒《クリスティアーニ》をばエチオピア人《びと》罪に定めむ、こは人二の群《むれ》にわかたれ、彼|永遠《とこしへ》に富み此貧しからん時なり 一〇九―一一一
汝等の王達の汚辱をすべて録《しる》しゝ書《ふみ》の開かるゝを見る時、ペルシア人《びと》彼等に何をかいふをえざらむ 一一二―一一四
そこにはアルベルトの行爲《おこなひ》の中、ほどなく筆を運ばしむる事見ゆべし、その行爲によりてプラーガの王國の荒らさるゝこと即ち是なり 一一五―一一七
そこには猪《ゐのしゝ》に衝《つ》かれて死すべき者が、貨幣《かね》の模擬《まがへ》を造りつゝ、センナの邊《ほとり》に齎《もたら》すところの患《うれへ》見ゆべし 一一八―一二〇
そこにはかのスコットランド人《びと》とイギリス人とを狂はし、そのいづれをも己が境の内に止まる能はざらしむる傲慢《たかぶり》(渇《かわき》を起す)見ゆべし 一二一―一二三
スパニアの王とボエムメの王(この人|嘗《かつ》て徳を知らずまた求めしこともなし)との淫樂《いんらく》と懦弱《だじやく》の生活と見ゆべし 一二四―一二六
イエルサレムメの跛者《あしなへ》の善は一のI《イ》にて記《しる》され、一のM《エムメ》はその惡の記號《しるし》となりて見ゆべし 一二七―一二九
アンキーゼが長生《ながきいのち》を畢《を》へし處なる火の島を治むる者の強慾と怯懦《けふだ》と見ゆべし 一三〇―一三二
またかれのいみじき小人なるをさとらせんため、その記録には略字を用ゐて、些《すこし》の場所に多くの事を言現はさむ 一三三―一三五
またいと秀《ひい》づる家系《いへがら》と二の冠とを辱めたるその叔父と兄弟との惡しき行《おこなひ》は何人にも明らかなるべし 一三六―一三八
またポルトガルロの王とノルヴェジアの王とはかの書《ふみ》によりて知らるべし、ヴェネージアの貨幣《かね》を見て禍ひを招けるラシアの王また然り 一三九―一四一
あゝ重ねて虐政を忍ばずばウンガリアは福なる哉、取卷く山を固《かため》となさばナヴァルラは福なる哉 一四二―一四四
またこの事の契約として、ニコシアとファマゴスタとが今既にその獸――他の獸の傍《かたへ》を去らざる――の爲に 一四五―一四七
嘆き叫ぶを人皆信ぜよ。
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   第二十曲

全世界を照らすもの、わが半球より、遠くくだりて、晝いたるところに盡くれば 一―三
さきにはこれにのみ燃《もや》さるゝ天、忽ち多くの光――一の光をうけて輝く――によりて再び己を現はすにいたる 四―六
かゝる天の現象《すがた》なりき、世界とその導者達との徴號《しるし》の尊き嘴|默《もだ》しゝ時、わが心に浮べるものは 七―九
そはかの諸※[#二の字点、1−2−22]の生くる光は、みないよ/\強く光りつゝ、わが記憶より逃げ易《やす》く消え易き歌をうたひいでたればなり 一〇―一二
あゝ微笑《ほゝゑみ》の衣を纏《まと》ふうるはしき愛よ、聖なる思ひの息《いき》のみ通へるかの諸※[#二の字点、1−2−22]の笛の中に汝はいかに熱《あつ》く見えしよ 一三―一五
第六の光を飾る諸※[#二の字点、1−2−22]の貴きかゞやける珠、その妙《たへ》なる天使の歌を絶《た》ちしとき 一六―一八
我は清らかに石より石と傳ひ下りて己が源の豐《ゆたか》なるを示す流れのとある低語《さゝやき》を聞くとおぼえき 一九―二一
しかしてたとへば琵琶《びわ》の頸にて、音《おと》その調《しらべ》を得《え》、篳篥《ひちりき》の孔にて、入來る風またこれを得るごとく 二二―二四
かの鷲の低語《さゝやき》は、待つ間もあらず頸を傳ひて――そが空《うつろ》なりしごとく――上《のぼ》り來れり 二五―二七
さてかしこに聲となり、かしこよりその嘴を過ぎ言葉の體《かたち》を成して出づ、この言葉こそわがこれを録《しる》しゝ心の待ちゐたるものなれ 二八―三〇
我に曰ふ。わが身の一部、即ち物を見、かつ地上の鷲にありてはよく日輪に堪ふるところを今汝心して視るべし 三一―三三
そはわが用ゐて形をとゝなふ諸※[#二の字点、1−2−22]の火の中《うち》、目となりてわが首《かうべ》が輝く者、かれらの凡ての位のうちの第一を占むればなり 三四―三六
眞中《まなか》に光りて瞳となるは、聖靈の歌人《うたびと》、邑《まち》より邑にかの匱《はこ》を移しゝ者なり 三七―三九
今彼は、己が歌の徳――己が思ひよりこの歌のいでたるかぎり――をば、これにふさはしき報《むくい》によりて知る 四〇―四二
輪を造りて我眉となる五の火の中、わが嘴《くちばし》にいと近きは、寡婦《やもめ》をばその子の事にて慰めし者なり 四三―四五
今彼は、クリストに從はざることのいかに貴き價を拂ふにいたるやを知る、そは彼この麗《うるは》しき世とその反《うら》とを親しく味ひたればなり 四六―四八
またわがいへる圓のうちの弓形《ゆみがた》上《のぼ》る處にて彼に續くは、眞《まこと》の悔《くひ》によりて死を延べし者なり 四九―五一
今彼は、適《ふさ》はしき祈り下界にて、今日《けふ》の事を明日《あす》になすとも、永遠《とこしへ》の審判《さばき》に變りなきを知る 五二―五四
次なる者は、牧者に讓らんとて(その志善かりしかど結べる果《み》惡《あ》しかりき)律法《おきて》及び我とともに己をギリシアのものとなせり 五五―五七
今彼は、その善行より出でたる惡の、たとひ世を亡ぼすとも、己を害《そこな》はざるを知る 五八―六〇
弓形|下《くだ》る處に見ゆるはグリエルモといへる者なり、カルロとフェデリーゴと在るが爲に嘆く國彼なきが爲に泣く 六一―六三
今彼は、天のいかばかり正しき王を慕ふやを知り、今もこれをその輝く姿に表はす 六四―六六
トロイア人《びと》リフェオがこの輪の聖なる光の中の第五なるを、誤り多き下界にては誰か信ぜむ 六七―六九
今彼は、神の恩惠《めぐみ》について世のさとりえざる多くの事を知る、その目も底を認めざれども。 七〇―七二
まづ歌ひつゝ空に漂ふ可憐《いとほし》の雲雀《ひばり》が、やがて自ら最後《をはり》の節《ふし》のうるはしさに愛《め》で、心足りて默《もだ》すごとく 七三―七五
永遠《とこしへ》の悦び(これが願ふところに從ひ萬物皆そのあるごとくなるにいたる)の印せる像《かたち》も心足らへる如く見えき 七六―七八
しかしてかしこにては我のわが疑ひにおけるあたかも玻※[#「王+黎」、第3水準1−88−35]《はり》のその被《おほ》ふ色におけるに似たりしかど、この疑ひは默《もだ》して時を待つに堪へず 七九―八一
己が重《おも》さの力をもて、これらの事は何ぞやといふ言《ことば》をばわが口より押出したり、またこれと共に我は大いなる喜びの閃《ひらめ》くを見き 八二―八四
かくてかの尊《たふと》き徴號《しるし》、いよ/\つよく目を燃やしつゝ、我をながく驚異《あやしみ》のうちにとめおかじとて、答ふらく 八五―八七
我見るに、汝がこれらの事を信ずるは、わがこれを言ふが爲にてその所以を知れるに非ず、されば事信ぜられて猶隱る 八八―九〇
汝はあたかも物を名によりてよく會得《ゑとく》すれども、その本質にいたりては人これを現はさゞれば知る能はざる者の如し 九一―九三
それ天の王國[#「天の王國」に白丸傍点]は、熱き愛及び生くる望みに侵さる、これらのもの聖意《みこゝろ》に勝つによりてなり 九四―九六
されどその状《さま》人々を從ふる如きに非ず、そがこれに勝つはこれ自ら勝《か》たれんと思へばなり、しかして勝れつゝ己が仁慈《いつくしみ》によりて勝つ 九七―九九
さて眉の中なる第一と第五の生命《いのち》が天使の國に描かるゝを見て汝これを異《あや》しめども 一〇〇―一〇二
かれらはその肉體を出るに當り汝の思ふ如く異教徒なりしに非ず、基督教徒《クリスティアーニ》にて、彼は痛むべき足此は痛める足を固く信じき 一〇三―一〇五
即ちその一者《ひとり》は、善意《よきおもひ》に戻《もど》る者なき處なる地獄より骨に歸れり、是|抑※[#二の字点、1−2−22]《そも/\》生くる望みの報《むくい》にて 一〇六―一〇八
この生くる望みこそ、彼の甦りその思ひの移るをうるにいたらんため神に捧げまつれる祈りに力をえしめたりしなれ 一〇九―一一一
件《くだん》の尊き魂は肉に歸りて(たゞ少時《しばし》これに宿りき)、己を助くるをうるものを信じ 一一二―一一四
信じつゝ眞《まこと》の愛の火に燃えしかば、第二の死に臨みては、この樂しみを享《う》くるに適《ふさ》はしくなりゐたり 一一五―一一七
また一者《ひとり》は、被造物《つくられしもの》未だ嘗《かつ》て目を第一の波に及ぼしゝことなきまでいと深き泉より流れ出る恩惠《めぐみ》により 一一八―一二〇
その愛を世にてこと/″\く正義に向けたり、是故に恩惠《めぐみ》恩惠に加はり、神彼の目を開きて我等の未來の贖《あがなひ》を見しめぬ 一二一―一二三
是においてか彼これを信じ、其後異教の惡臭《をしう》を忍ばず、かつその事にて多くの悖《もと》れる人々を責めたり 一二四―一二六
汝がかの右の輪の邊《ほとり》に見しみたりの淑女は、洗禮《バッテスモ》の事ありし時より一千年餘の先に當りて彼の洗禮となりたりき 一二七―一二九
あゝ永遠《とこしへ》の定《さだめ》よ、第一の原因《もと》を見きはむるをえざる目に汝の根の遠ざかることいかばかりぞや 一三〇―一三二
また汝等人間よ愼みて事を斷ぜよ、われら神を見る者といへども猶《なほ》凡ての選ばれし者を知らじ 一三三―一三五
而して我等かく缺處《かくるところ》あるを悦ぶ、我等の幸《さいはひ》は神の思召《おぼしめ》す事をわれらもまた思ふといふその幸によりて全うせらるればなり。 一三六―一三八
かくかの神の象《かたち》、わが近眼《ちかめ》をいやさんとて、われにこゝちよき藥を與へき 一三九―一四一
しかしてたとへば巧みに琵琶を奏《かな》づる者が、絃《いと》の震動《ゆるぎ》を、巧みに歌ふ者と合《あは》せて、歌に興を添ふるごとく 一四二―一四四
(憶ひ出づれば)我は鷲の語る間、二のたふとき光が言葉につれて焔を動かし、そのさま雙《さう》の目の 一四五―一四七
時|齊《ひと》しく瞬《またゝ》くに似たるを見たり
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   第二十一曲

はやわが目は再び
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