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わが言《ことば》かくその意《こゝろ》に適《かな》へるなりき。 ―一五六
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第二十五曲
年久しく我を窶《やつ》れしむるほど天地《あめつち》ともに手を下しゝ聖なる詩、もしかの麗はしき圈《をり》―― 一―
かしこに軍《いくさ》を起す狼どもの敵《あだ》、羔《こひつじ》としてわが眠りゐし處――より我を閉《し》め出《いだ》すその殘忍に勝つこともあらば ―六
その時我は變れる聲と變れる毛とをもて詩人として歸りゆき、わが洗禮《バッテスモ》の盤のほとりに冠を戴かむ 七―九
そは我かしこにて、魂を神に知らすものなる信仰に入り、後ピエートロこれが爲にかくわが額《ひたひ》の周圍《まはり》をめぐりたればなり 一〇―一二
クリストがその代理者の初果《はつなり》として殘しゝ者の出でし球より、このとき一の光こなたに進めり 一三―一五
わが淑女いたく悦びて我にいふ。見よ、見よ、かの長《をさ》を見よ、かれの爲にこそ下界にて人ガーリツィアに詣《まうづ》るなれ。 一六―一八
鳩その侶《とも》の傍《かたへ》に飛びくだるとき、かれもこれも※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]《めぐ》りつゝさゝやきつゝ、互《かたみ》に愛をあらはすごとく 一九―二一
我はひとりの大いなる貴き君が他のかゝる君に迎へられ、かれらを飽《あ》かしむる天上の糧《かて》をばともに讚《ほ》め稱《たゝ》ふるを見き 二二―二四
されど會繹《えしやく》終れる時、かれらはいづれも、我に顏を垂《た》れしむるほど強く燃えつゝ、默《もだ》してわが前にとゞまれり 二五―二七
是時ベアトリーチェ微笑《ほゝゑ》みて曰ふ。われらの王宮の惠みのゆたかなるを録《しる》しゝなだゝる生命《いのち》よ 二八―三〇
望みをばこの高き處に響き渡らすべし、汝知る、イエスが、己をいとよく三人《みたり》に顯はし給ひし毎に、汝のこれを象《かたど》れるを。 三一―三三
頭《かうべ》を擧げよ、しかして心を強くせよ、人の世界よりこゝに登り來るものは、みなわれらの光によりて熟せざるをえざればなり。 三四―三六
この勵ます言《ことば》第二の火よりわが許《もと》に來れり、是においてか我は目を擧げ、かの先に重きに過ぎてこれを垂《た》れしめし山を見ぬ[#二七]
恩惠《めぐみ》によりてわれらの帝《みかど》は、汝が、未だ死なざるさきに、その諸※[#二の字点、1−2−22]の伯達《きみたち》と内殿に會ふことを許し 四〇―四二
汝をしてこの王宮の眞状《まことのさま》を見、これにより望み即ち下界に於て正しき愛を促《うなが》すものをば、汝と他《ほか》の人々の心に、強むるをえしめ給ふなれば 四三―四五
その望みの何なりや、いかに汝の心に咲くや、またいづこより汝の許に來れるやをいへ。第二の光續いてさらにかく曰へり 四六―四八
わが翼の羽を導いてかく高く飛ばしめしかの慈悲深き淑女、是時我より先に答へていふ 四九―五一
わが軍を遍《あまね》く照らすかの日輪に録《しる》さるゝごとく、戰鬪《たゝかひ》に參《あづか》る寺院にては彼より多くの望みをいだく子|一人《ひとり》だになし 五二―五四
是故にかれは、その軍役《いくさのつとめ》を終へざるさきにエジプトを出で、イエルサレムメに來りて見ることを許さる 五五―五七
さて他《ほか》の二の事、即ち汝が、知らんとてならず、たゞ彼をしてこの徳のいかばかり汝の心に適《かな》ふやを傳へしめんとて問ひし事は 五八―六〇
我是を彼に委《ゆだ》ぬ、そは是彼に難からず虚榮の本《もと》とならざればなり、彼これに答ふべし、また願はくは神恩《かみのめぐみ》彼にかく爲《な》すをえしめ給へ。 六一―六三
あたかも弟子が、その精《くわ》しく知れる事においては、わが才能《ちから》を現はさんため、疾《と》くかつ喜びて師に答ふるごとく 六四―六六
我曰ひけるは。望みとは未來の榮光の確《かた》き期待にて、かゝる期待は神の恩惠《めぐみ》と先立つ功徳より生ず 六七―六九
この光多くの星より我許《わがもと》に來れど、はじめてこれをわが心に注げるは、最大《いとおほ》いなる導者を歌へる最大いなる歌人《うたびと》たりし者なりき 七〇―七二
かれその聖歌の中にいふ、爾名《みな》を知る者は望みを汝におくべしと、また誰か我の如く信じてしかしてこれを知らざらんや 七三―七五
かれの雫《しづく》とともに汝その後《のち》書《ふみ》のうちにて我にこれを滴《したゝ》らし、我をして滿たされて汝等の雨を他《ほか》の人々にも降らさしむ。 七六―七八
わが語りゐたる間、かの火の生くる懷《ふところ》のうちにとある閃《ひらめき》、俄にかつ屡※[#二の字点、1−2−22]|顫《ふる》ひ、そのさま電光《いなづま》の如くなりき 七九―八一
かくていふ。棕櫚《しゆろ》をうるまで、戰場《いくさのに
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