方《うへ》に離れゐたるため、わがをりし處にては、その状《さま》未だ我に見えねば 一一五―一一七
冠を戴きつゝ己が子のあとより昇れる焔に、わが目ともなふあたはざりき 一一八―一二〇
しかしてたとへば、乳を吸ひし後、愛燃えて外《そと》にあらはれ、腕《かひな》を母の方《かた》に伸《の》ぶる稚兒《をさなご》のごとく 一二一―一二三
これらの光る火、いづれもその焔を上方《うへ》に伸べ、そがマリアにむかひていだく尊き愛を我に示しき 一二四―一二六
かくてかれらはレーギーナ・コイリーをうたひつゝわが眼前《めのまへ》に殘りゐたり、その歌いと妙《たへ》にしてこれが喜び一|度《たび》も我を離れしことなし 一二七―一二九
あゝこれらの最《いと》も富める櫃《はこ》に――こは下界にて種を蒔《ま》くに適《ふさ》はしき地なりき――收めし物の豐かなることいかばかりぞや 一三〇―一三二
こゝにはかれらそのバビローニアの流刑《るけい》に泣きつゝ黄金《こがね》をかしこに棄てゝえたる財寶《たから》にて生き、かつこれを樂しむ 一三三―一三五
こゝにはいと大いなる榮光の鑰を保つ者、神の、またマリアの尊き子の下《もと》にて、舊新二つの集會《つどひ》とともに 一三六―
その戰勝《かちいくさ》を祝ふ ―一四一
[#改ページ]
第二十四曲
あゝ尊き羔《こひつじ》(彼汝等に食を與へて常に汝等の願ひを滿たす)の大いなる晩餐《ゆふげ》に選ばれて列る侶等よ 一―三
神の恩惠《めぐみ》により、此人汝等の食卓《つくゑ》より落つる物をば、死が未だ彼の期《とき》を定めざるさきに豫《あらかじ》め味ふなれば 四―六
心をかれのいと深き願ひにとめ、少しくかれを露にて潤《うる》ほせ、汝等は彼の思ふ事の出づる本《もと》なる泉の水をたえず飮むなり。 七―九
ベアトリーチェかく、またかの喜べる魂等は、動かざる軸の貫《つらぬ》く球となりて、そのはげしく燃ゆることあたかも彗星《はうきぼし》に似たりき 一〇―一二
しかして時辰儀《じしんぎ》にては、その裝置《しかけ》の輪|※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]《めぐ》るにあたり、これに心をとむる人に、初めの輪しづまりて終りの輪飛ぶと見ゆるごとく 一三―一五
これらの球は、或は速く或は遲くさま/″\に舞ひ、我をしてかれらの富を量《はか》るをえしめき 一六―一八
さていと美しと我に見えし球の中より一の火出づ、こはいと福なる火にて、かしこに殘れる者一としてこれより燦《あざやか》なるはなかりき 一九―二一
この火歌ひつゝベアトリーチェの周邊《まはり》をめぐること三|度《たび》、その歌いと聖なりければ我今心に浮べんとすれども効《かひ》なし 二二―二四
是故にわが筆|跳越《をどりこ》えてこれを録《しる》さじ、われらの想像は、况《まし》て言葉は、かゝる襞※[#「ころもへん+責」、第3水準1−91−87]《ひだ》にとりて色|明《あかる》きに過ればなり 二五―二七
あゝかくうや/\しくわれらに請ふわが聖なる姉妹よ、汝の燃ゆる愛によりて汝は我をかの美しき球より解けり。 二八―三〇
かの福なる火は、止まりて後、息《いき》をわが淑女に向けつゝ、わがいへるごとく語れるなりき 三一―三三
この時淑女。あゝわれらの主がこの奇《く》しき悦びの鑰《かぎ》(下界に主の齎《もたら》し給ひし)を委《ゆだ》ね給へる丈夫《ますらを》の永遠《とこしへ》の光よ 三四―三六
嘗《かつ》て汝に海の上を歩ましめし信仰に就き、輕き重き種々《さま/″\》の事をもて、汝の好むごとく彼を試みよ 三七―三九
彼善く愛し善く望みかつ信ずるや否や、汝これを知る、そは汝目を萬物《よろづのもの》の描かれて視ゆるところにとむればなり 四〇―四二
されどこの王國が民を得たるは眞《まこと》の信仰によるがゆゑに、これに榮光あらしめんため、これの事を語る機《をり》の彼に來るを宜《むべ》とす。 四三―四五
あたかも學士が、師の問を發《おこ》すを待ちつゝ、これを論《あげつら》はんため――これを決《きむ》るためならず――默《もだ》して備を成すごとく 四六―四八
我はかゝる問者に答へかつかゝる告白をなすをえんため、淑女の語りゐたる間に、一切の理《ことはり》をもて備を成せり 四九―五一
いへ、良き基督教徒《クリスティアーノ》よ、汝の思ふ所を明《あか》せ、そも/\信仰といふは何ぞや。我即ち頭《かうべ》を擧げてこの言《ことば》の出でし處なる光を見 五二―五四
後ベアトリーチェにむかへば、かれ直に我に示してわが心の泉より水を注ぎいださしむ 五五―五七
我曰ふ。大いなる長《をさ》の前にてわがいひあらはすを許す恩惠《めぐみ》、願はくは我をしてよくわが思ひを述ぶるをえしめよ。 五八―六〇
かくて續いて曰ふ。父よ、汝とともに、ローマを正しき路に就かせし汝
前へ
次へ
全121ページ中38ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
山川 丙三郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング