翼}リア。聖靈に感じてキリストを生めり(マタイ、一・一八)
【わが語り】一九―二四行
一〇〇―一〇二
晝の間は我等祈る毎に恰も祈りの後の唱和の如く清貧仁惠の例を誦《ず》し夜到ればこれに代へて貪慾の罰の例を誦す
一〇三―一〇五
罰の第一例。ピュグマリオン(ピグマリオン)はトュロス(フィニキアにあり)の王なり、その姉妹ディドの夫なるシュカイウスの財寶を奪はんためこれを殺しかつディドを欺きて己が罪を蔽へり(『アエネイス』一・三四〇以下參照)
一〇六―一〇八
第二例。ミダス(ミーダ)はフルュギアの王なり、己が身に觸るゝもの悉く變じて黄金となるを願ひ、バッコス神に請ひてその許しをえたり、されど食物もまた口に觸るゝに從つてすべて黄金に化するをみ、遂に救ひをバッコスに求む(オウィディウス『メタモルフォセス』一一・八五以下參照)
一〇九―一一一
第三例。ユダヤ人アカン、エリコの分捕品の中より金銀若干を盜みしかば、ヨシュア(ヨスエ)人々に命じ石にてこれをうちころさしむ(ヨシュア、七・一以下)
一一二―一一七
第四例、サツピラとその夫アナニア。あひはかりて己が私慾の爲に使徒等を欺かんとし、ペテロに責められて仆れ死す(使徒、五・一―一〇)
第五例、ヘリオドロス(エリオドロ。シリア王セレウコスの命をうけてイエルサレムの殿《みや》の資物を奪はんとせし時一騎士忽焉としてその前に現はれ、馬蹄にかけてこれを逐へり(マッカベエイ後、三・七以下)
第六例、ポリュメストル(ポリネストル)。トラキアの王なり、トロイア王デリアモスの委托によりてその末の子ポリュドロス(地、三〇・一八)を養ひゐたるがトロイアの衰運に赴くを見るやポリュドロスの富を私せんとし、これを殺してその骸《むくろ》をば海に投じぬ、プリアモスの妃ヘカべ、ギリシア軍にとらへられてこの地を過ぐとてはからずもわが子の骸を海濱に見出し(地、三〇・一六―二一參照)悲しみのあまりに復讎を企て、僞り謀りてポリュメストルに近づき、その兩眼を抉りてこれを殺せり(オウィディウス『メタモルフォセス』一三・四二九以下參照)
第七例、マルクス・リキニウス・クラッスス(前五三年死)。カエサル、ポムペイウスとともにローマの三頭政治を行へるもの、強慾を以て名高し、傳へ曰ふ、クラッスス、パルチア人に殺されしとき王オロデスその首級を求めて熔かせる黄金を口につぎこみ、汝常に黄金に渇きゐたれば今こそこれを飮めといへりと
一三〇―一三二
【デロ】デロス、キュクラデス諸島の一にてエーゲ海中にあり、神話に曰、この島はもと浮島なりしがレトこゝにてアポロン、アルテミスの二神(即ちゼウスとレトの間の子)を生むにいたれるより爾來一處に固定して再び浮遊することなしと(『メタモルフォセス』六・一八九以下參照)
【天の二の目】日(アポロン)と月(アルテミス)
一三六―一三八
【至高處】キリストの降誕にあたりて諸天使のうたへる歌(ルカ、二・一四)
一三九―一四一
【牧者】ルカ、二・八以下參照
一四二―一四四
【歎】淨、一九・七〇―二及び二〇・一六―八參照
一四五―一五〇
鳴動及び合唱の原因(淨、二一・四〇以下)を知るの願ひ甚だ切なるをいふ
【疑ひ】原、無智
【解説を】原、知るを


    第二十一曲

ラテン詩人スタティウスの靈罪清まりて天に登らんとし、兩詩人の後より來りてこれに加はり地震と頌詠の由來を説き且つその一の己が師事せしウェルギリウスなるを知りて大いに喜ぶ
一―三
【サマーリアの女】井の傍に坐せるキリスト、サマリアの女の水を汲まんとて來れるを見、我に飮ませよといふ、女そのユダヤ人なるを知りてあやしむ、キリスト曰、汝若し我に求めば我活水を汝に與へん、およそこれを飮む者永遠に渇くことなし、女いふ、主よその水を我に與へよ(ヨハネ、四・六以下)
【水】眞
【渇】求知の願ひ(淨、二〇・一四五以下參照)。ダンテが『コンヴィヴィオ』の卷頭に引用せるアリストテレスの言に曰、人皆自然に知を求むと
四―六
【障】路に伏せし魂
七―九
キリスト甦りて後イエルサレムとエマオの間の路にてその二人の弟子に現はれたまへり(ルカ、二四・一三以下)
一三―一五
【表示】答禮の。或曰、cenno は挨拶の詞にて Pace con voi(汝等安かれ)に對し E collo spirito tuo(汝の靈も)と應ふる定例の挨拶をいふと
一六―一八
問ふ(地震の原因を)に當りてまづ對話者の幸を希へる詞(地、一〇・八二―四並びに註參照)
【永遠の流刑】郷土なる天に歸るをえずして永くリムボに止まること
【眞の法廷】神の正しき審判
一九―二一
ウェルギリウスの問はざるさきにその詞をさへぎりていへむ
【その段】神の許に通ずる路即ち淨火
二二―二四
【標】額上のP字
【善き民と】天上の祝福を受くる者なるを
二五―二七
されど彼猶生くるがゆゑに
【女神】ラケシス。運命を司る三神(モイライ又はパルカエ)の一にて生命《いのち》の絲を紡ぐ者
【クロート】同三神の一、人生るゝ毎にその生命の絲となるべき麻の量を定めてこれを絲車の棒に掛く
二八―三〇
【姉妹】同じ造主よりいづれば
【物を見る】肉體の覊絆を放せざるをもてその理性の目我等の如く明かならず
三一―三三
【闊き喉】地獄の最も輝き廣き圈即ちリムボ
三四―三六
【濡るゝ】海波に
三七―三九
【要にあたれり】原、針の目を透せり
四〇―四二
【この山の聖なる律法は】或ひは、この聖なる山は
四三―四五
【その原因と】淨火門内における變異の原因となるべきものはたゞ罪淨まれる魂のみ。換言すれば、天よりいでし(即ち神に造られし)魂天に歸ることある時に於てのみかの地震喊聲の如き變異起る
四六―四八
【階】淨火の門の(淨、九・七六以下參照)
四九―五一
【タウマンテの女】イリス。タウマス(タウマンテ)とオケアノスの間に生る、虹の女神なり(神話)。朝は西夕は東にあらはるゝをもて處を變ふる[#「處を變ふる」に白丸傍点]といへり
五二―五四
【乾ける氣】アリストテレスの説に曰。地上の變異すべて地氣より生ず、此氣の濕《しめ》れるもの雨、雪、雹、露、霜となり、その乾けるもの風を起し乾きて強きもの地震を起すと(地、三三・一〇三―五註參照)
【ピエートロの代理者】門を守る天使(淨、九・一〇三―五及び一二七―九參照)
五五―五七
【下】淨火門外
【地にかくるゝ】地下にひそむ乾ける氣の動くによりて地震ふといへる古の學説によれり
五八―六〇
【起ち】起つ[#「起つ」に白丸傍点]は地上に伏す第五圈の魂につきていひ、進む[#「進む」に白丸傍点]は他の諸圈の魂につきていふ
六一―六三
【意志】天に登るの願ひ。己が罪清まる時は魂忽ちこの願ひを起しかつこれを起すをよるこぶ、故にこの願ひの起るは即ち罪清まれる證據なり
【侶を變ふる】罪を淨むる魂を離れて福を享くる民に到る
六四―六六
罪未だ清まらざる時に於てる天に登るの願ひなきにはあらず、されどかゝる時の願ひは正義に從つて罪を淨めんとする他の願ひに檢束せらるゝが故に自由の願ひにあらず
【罪を求めし如く】在世の日は心の願ひ罪に傾きて意志(眞の幸を求むる願ひ)にさからひ、今は心の願ひ罪を淨むることを求めて意志(天に昇るの願ひ)にさからふ
六七―六九
【我】プブリウス・パピニウス・スタティウス。有名なるラテン詩人、一世紀の後半の人
【五百年餘】その以前は第四圈にあり(淨、二二・九一―三參照)
【まされる里】原、まされる閾。天
七六―七八
【網】罪を淨むる願ひ
【解くる】罪清まるによりて
【倶に喜ぶ】喊聲をあげて
八二―八七
ローマ皇帝ヴェスパシアヌスの子ティトウス(後、位を嗣ぎ七九年より八一年まで皇帝たり)がイエルサレムを毀てる頃即ちキリスト暦の七〇年
【主】神
【傷】キリストの。聖都の毀たれし事をキリストの磔殺に對する神罰と見做せるなり
【名】詩人の
【信仰】キリスト教の
八八―九〇
【有聲の靈】歌
【トロサ】フランスの南にある町(トウルーズ)。註釋者曰。スタティウスの生地はトロサにあらすしてナポリなり、こはこの詩人の詩集『サルヴェ』に因りて知るをうべし、されど『サルヴェ』の發見は十五世紀の事に屬しダンテの時代にては一般にトロサの文人ルーチオ・スターツィオ・ウルソロと詩人スタティウスとを混じたりと
【ミルト】常縁樹の名、これを詩人の冠とすること桂樹《ラウロ》の如し
九一―九三
スタティウスの作に敍事詩『テーバイス』十二卷及び未完成の『アキルレース』二卷あり
【第二の】『アキルレース』未だ完結せざるうちに我は死せり
九四―九六
【情熱】詩的
【焔】『アエネイス』
九七―九九
【これなくば】この歌なくばわが著作に何等の價値もなかりしなるべし。一ドラクマは一※[#「オンス」の単位記号、291−16]の八分の一
一〇〇―一〇二
ウェルギリウスは前一九年に死せり
【一年】たとひ今一年淨火にとゞまるとも
一〇六―一〇八
【誠實】その人正直なれば正直なるほど哀樂の情を蔽ひ難し
一三〇―一三二
【しかするなかれ】されど淨、六・七五にはウェルギリウスとソルデルロと相抱けること見ゆ


    第二十二曲

詩人等第五圈より階を踏みてのぼる、その道すがらスタティウス、ウェルギリウスに己が罪と改悔の次第を告げかくて第六圈に到りて右に進めば路の中央に一果樹あり、聲葉の中よりいでて節制の例を誦《ず》す
一―三
【疵】額上のP
四―六
【彼は我等に】異本、また義を慕ふ者等(天使等)我等に福なりといひ
【シチウント】sitiunt(渇く)。マタイ傳に曰く、義に饑ゑ渇く者は福なり(五・六)
この一節ウルガータには Beati qui esuriunt et sitiunt institiam とあり、その中の esuriunt を省きて單に Beati qui sitiunt iustitiam(義に渇く者は福なり)といへるなり、饑う[#「饑う」に白丸傍点](esuriunt)を省けるはこれを渇く[#「渇く」に白丸傍点]とわかちて第六圈の頌詠となさんためなり(淨、二四・一五一以下參照)
異本にシチオー(sitio 我渇く)とあり、前項異本の文とあはせて委しくはムーアの『用語批判』四〇五頁以下を見よ
一三―一五
【ジヨヴェナーレ】デーチムス・ユーニウス・ユーヴェナリス。有名なるラテン詩人(一三〇年頃死)、その諷刺詩第七篇(八二行以下)にスタティウスの著作を稱讚せる詞いづ
一九―二一
【わが手綱】わが問ひ露骨にして禮を失ふことあらば
三一―三三
【圈】第五圈
三四―三六
【あまりに】浪費の罪に陷るばかりに
【幾千の月】五百年餘の間(淨、二一・六七以下)浪費の罰をうく
三七―四二
【あゝ黄金の】貪る者も費す者も共に黄金を求めていかなる惡をも行ふをいふ
この句『アエネイス』三・五六―七にいづ、但し sacra(sacer 聖《きよ》き、不淨の)を不淨の意に用ゐることイタリア語の用例に反するがゆゑに異説多し
【轉ばしつゝ】第四の地獄にて重荷をまろばすこと(地、七・二五以下參照)
【牴觸】原、試合。貪る者と費す者と相互に打當ること(同上)
四三―四五
汝の言を聞きてみだりに費すことの罪なるを知り、これを悔ゆることわが他の罪の如くなりき
四六―四八
【髮を削りて】最後の審判の日浪費の記念に髮を短くして墓より起き出るをいふ(地、七・五五―七並びに註參照)
四九―五一
地獄と同じく淨火にても罪の相反するもの(浪費と強慾の如き)同一の場所に罰せらる。縁を涸らす[#「縁を涸らす」に白丸傍点]は活力を消耗するなり、即ち悔恨によりて罪を贖ふなり
五五―五七
【牧歌】ウェルギリウスの著作に牧歌十篇(Bucolica)あり
【二重の憂ひ】テバイ王オイディプスとヨカステ(ヨカスタ)の間の二子(エテオクレス、ポリュネイケス)。ヨカステ、オイディプスの己が子なるを知りて縊死す
【酷き】兄弟相殺すにいたれる(地、一四・六七―七二註及び二六・四九―五四註參照)。この爭のことスタティウスの『テバイス』にいづ
五八―六
前へ 次へ
全40ページ中33ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
山川 丙三郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング