にかゝる
【アルキアーノ】僧院の上なる二水相合して下りビビエーナの北なる丘の麓にいたりてアルノに注ぐ、これをアルキアーノといふ、溪を横ぎりてアルノに入るが故によこさまにといへるなり
九七―九九
【名消ゆる處】アルキアーノとアルノの落合。アルキアーノこゝにいたりてその名を失ふ、こゝより海に赴くまでたゞアルノと稱へらるればなり
カムパルディーノよりこの落合まで約二哩半ありといふ
一〇〇―一〇二
【マリア】臨終に聖母の名を呼べるなり
一〇三―一〇八
【地獄の使者】鬼。地、二七・一一二以下にボンコンテの父につきて聖フランチェスコと鬼と爭へることいづ、すべてこの種類の物語中古の傳説に多かりきといふ、ミカエル(ミケーレ)と鬼とモーゼの屍を爭へりとの記事すでに聖書の中(ユダ、九)にあるをおもへ
【天に屬する】異本。天より來れる
【不朽の物】魂
一一二―一一四
以下鬼がブオンコンテの遺骸を虐待せるさまを敍す、但しこの一聯、文の組立につきて異説多し
【性より】靈體として風雲を左右するの力を有す
一一五―一一九
【プラートマーニオ】カセンティーノの西の境にある高山
【連山】アペンニノ山脈。プラートマーニヨと相對して東にあり
一二一―一二三
【流れ】カセンティーノの諸川。アルキアーノも其一なり
【たふとき川】fiume real 直接に海に注ぐ川にてこゝにてはアルノを指す
一二四―一二九
【苦しみに】悔恨の
【身をもて造れる】腕を胸の上に組みて十字架の形をつくれるなり
【獲物】大水に押流さるゝ草木砂泥の類
一三三―一三六
【ピーア】シエーナなるトロメエイ家の者にてマレムマなるピエートラの城主ネルロ・デ・パンノッキエスキに嫁せしが後これに殺されたりといふ、殺害の原因、年月及び其他の事につきては諸説ありて定かなること知り難し
【シエーナ我を造り】我はシエーナに生れてマレムマ(地、一三・七―九註參照)に死せり
【縁の】指輪を與へて後、妻に迎ふること正しき結婚の慣例なればピーアはその私《ひそか》にネルロに嫁せるにあらざるを示せるなりとの説採るべきに似たり、異本異説倶に多し
【與へしもの】即ち夫ネルロ


    第六曲

横死の際にはじめて悔改めし他の多くの魂を見て後、詩人等神の審判と生者の祈祷についてかたり遂にソルデルロ(ソルデル)のたゞひとり坐してゐたる處にいたる、ダンテは彼が同郷の好《よし》みをもてウェルギリウスをよろこび迎ふるを見、己が郷國を思ふの念に堪へず、悲歌慷慨す
一―三
【ヅァーラ】zara 中古、最も流行せる遊戲の一。三個の骰子《さい》を用ゐて勝敗を決す
【くりかへし】悲しみつゝも屡※[#二の字点、1−2−22]骰子を投げて練習を積み次の勝負に勝たんとするなり
四―六
懷ゆたかなる勝者に從ひ行きて各※[#二の字点、1−2−22]多少の恩澤にあづからんとす
一〇―一二
【約束】彼等のために善人の祈りを請ふの約束
一三―一五
【死せるもの】ベニンカーサ・ダ・ラテリーナ。アレッツオの法官にて、十三世紀の人なり、シエーナの貴族ギーノ(ギーン)・ディ・タッコの近親(ギーノと同じく奪掠を事とせるもの)に死刑を宣せしことありしかばギーノこれを含みベニンカーサがローマの法官となりてかの地に赴ける後己もまたローマにいたり法廷に於てこれを殺しその首級を提げて去れり
【追ひて】或ひは、追はれて(敵に)
【溺れし者】名をグッチョといひ、アレッツオなるギベルリニ黨の首領なりしタルラーティ家の者なり、嘗てグエルフイ黨と戰ひてこれを追へるときその馬アルノの川に入れりといふ
一六―一八
【フェデリーゴ・ノヴェルロ】カセンティーノの伯爵グイード・ノヴェルロの子。一二八九年(或曰九一年)ビビエーナの附近にてアレッツオなるボストリ家の者に殺さる。
【ピサの者】古註に曰。こはファリナータとてピサなるスコルニジアーニ家のマ―ルヅッコの子なり、彼ピサの市民に殺されしとき、その頃故ありてフランチェスコ派の僧となりゐたりし父マールヅッコ、他の僧侶と共にいでてその葬儀を營みかつ神の旨に從はんため殺害者の罪を容せりと
【強きを】わが子を殺せる者を赦せるをいふ
一説に曰。ファリナータはウゴリーノ伯爵がピサを治めし頃罪を得て斬首せられし者なり、その遺骸久しく市に放棄せられしかばマールヅッコ姿を變へて伯爵の許にゆき埋葬の事を乞ふ、ウゴリーノその何人なるやを知り、汝の堅忍よくわが固陋と拗執に勝てり行きて汝の欲するところを爲せといひ、その請ひを容れたるなりと
一九―二一
【オルソ】オルソ・デーリ・アルベルティ。ナポレオネ伯(地、三二・五五―七註參照)の子なり、一二八六年その從弟即ちアレッサンドロの子アルベルトの殺すところとなる、アルベルトはこれによりてその父の怨みを報いしなり
二二―二四
【ピエール・ダ・ラ・ブロッチア】もと下賤の生れなりしがフランス王フィリップ三世の信任を得て高官に陞る、のち君寵次第に衰へ遂に反逆の罪をうけて絞罪に處せらる
【ブラバンテの淑女】ブラバンテの公爵エンリコ六世の女にしてマリーといひ、フィリップ三世の後妻なりし者。當時の人ピエールの死をもて王妃の怨みにもとづくと信ぜしなり
一説に曰。一二七六年フィリップの長子ルイ死せる時、ピエールその死因をマリーの毒殺(即ち己の子を位に即かしめんための)に歸し、かくして王妃の怨みを買ひ從つてフィリップの信任を失ふにいたれり、フィリップ、カスティリア王アルフォンソ十世と戰ひを開くに及び、ピエールを嫉む者彼が敵と内通して機密をこれに漏せりとの事を王に具申し王妃一味の者と力を合せ、遂に彼を陷れきと
【これより惡しき群】地獄に罰せらるゝ者。人を讒せる罪によりて死後地獄(第八獄第十嚢)の刑罰をうくるなからんため未だ世にある間にその罪を悔ゆべし
マリーは一三二一年に死せり
二八―三〇
【詩の中にて】『アエネイス』の中にて(四〇―四二行註參照)
三四―三六
【わが筆】わがしるせるところと彼等の求むるところと矛盾せず
三七―三九
神たとひ世人の祈りを聽きたまふとも神の正義は依然として變ることなし
【愛の火】たとひ世にある人あたゝかき愛の心より淨火門外の魂のために祈りこの祈りによりてはやく天意を滿たし(若しこの祈りなくばかの魂等天の定むる時至るに及びてはじめて神慮を和ぐべきに)彼等をはやく門内に入らしむるとも
【審判の頂】神の審判のきびしくおごそかなるはかはらじ
四〇―四二
【陳べし處】アエネアス冥府に入りてスティージェの川に近づけるときパリヌルスの魂、これに己をも倶に渡らしめむことを乞ふ、アエネアスの導者シビルラこれを許さず、且つ曰く
神々の定めたまふこと、祈りのために變りうべしと思ふなかれ
と(『アエネイス』六・三三七以下)
【神よリ】パリヌルスの如きは神の恩寵をうくる者にあらざるがゆゑにその咎赦されずその願ひ聽かれざれしなり(淨、四・一三三―五參照)
四三―四五
【眞と智】靈界の奧義は人智のみを以て覺り難し、大智と雖もなほ天啓の光によりてはじめて眞を見るをうるなり
四九―五一
【主よ】異本、善き導者よ
五二―五四
【違ふ】登るべき路は汝の思ふよりも遠く且つ難し
五五―五七
汝未だ山の巓に達せざるうち、日は入り日は出でむ
六一―六三
【ロムバルディア】地、一・六七―九註參照
七〇―七二
【マントヴァ】同上
七三―七五
【ソルデルロ】マントヴァの出なるトルヴァドル派の詩人(十三世紀)
一説に曰。ソルデルロはマントヴァの領域内なるゴイートの人、十三世紀の初めに生る、後本國を去りてプロヴァンスに赴きシヤルル・ダンジュー一世に擢用せられ武人として又詩人としてこれに事ふ、シヤルル、イタリアに進軍せしときソルデルロこれに從ひて本國に歸り一二六九年の頃死すと(異説多し、委しくはロングフェローの註を見よ)
『デ・ウルガーリ・エーロクェンチアー』一、一五・一一以下にダンテがソルデルロの才藻を賞讚せし詞見ゆ
七六―七八
【屈辱の】國に一統の君主なく政權侯伯の恣にするところとなるをいふ
【水夫】皇帝に當る
七九―八一
【魂】ソルデルロ
八五―八七
チルレーノ、アドリアティコ兩海沿岸の諸州より内地にいたろまであまねくイタリアをたづねみよ
八八―九〇
皇帝ユスティニアヌス(天、六・一〇―一二註參照)汝イタリアの爲に多くの法をたてたりしかどその法に從ひて國を治むべき君主なくば何の益あらむ、法ありて行はれざるは法なきに若かず
九一―九三
【人々】法王僧侶等、即ち專ら靈界の事にたづさはりて國政を皇帝(カエサル)に委ぬべき人々
【神の言】カエサルの物はカエサルに復し神の物は神に復すべし(マタイ、二二・二一)
九四―九六
汝等國政に關與せるよりこの方帝王の統御を缺けるイタリア(馬)がいかに亂れて秩序なきにいたれるやを見よ
九七―九九
【アルベルト】ハプスブルク王家のアルブレヒト一世。皇帝ルドルフの子、一二九八年選ばれてローマ皇帝となりしもイタリアに赴かず、一三〇八年五月その甥ヨハンの弑するところとなる
一〇〇―一〇二
【奇しく】かの弑逆は即ち奇しく著しき天罰なり
【後を承くる者】ルクセンブルクのハインリヒ(アルリ―ゴ)七世(天、三〇・一三六―八參照)
一〇三―一〇五
【父】ルドルフ(淨、七・九一以下參照)
【かの地に】ドイツ諸州の中にとゞまり
一〇六―一〇八
【モンテッキ】ロメオとジュリエトの悲劇にて名高きヴェロナ市のモンテッキ(モンタギュー)カッペルレッティ(キャピユレト)兩家(共にギベルリニ)、及びオルヴィエート市のモナルディ(グエルフィ)ヒリッペスキ(ギベルリニ)兩家。處を同じうして而して相爭へる者の例をあげしなり、但し異説あり
【彼等】前の兩家は既に禍ひをうけて悲しみ、後の兩家も亦今不安の状態にあり
一〇九―一一一
【サンタフィオル】サンタフィーオラ。シエーナ市の領域内なるアルドブランデスコ(ギベルリニ)家の所有地。この一族一時勢ひ旺盛なりしもシエーナのグエルフィと爭ひてその勢ひを失ひ、サンタフィオルには當時盜賊横行せりといふ
一一五―一一七
【相愛する】軋轢爭鬪の甚しきを嘲れるなり
【己が名に】汝皇帝に對するイタリア人の侮蔑の目を見んために
一一八―一二〇
【ジョーヴェ】ゼウス神(地、一四・五二―四註參照)
【他の處に】イタリアをその罪惡のために棄てたまふか
一二一―一二三
或ひは後の福ひの女めに今この禍ひを下したまふか
一二四―一二六
【マルチェル】マルチェルロ。カエサルの勁敵マルクス・クラウディウス・マルチェルルスを指せるなるべしといふ。匹夫も政爭を利用してよく帝國の大敵となるをいへるなり
一二七―一二九
爭亂の中心にして無主義無秩序なるフィレンツェを嘲れる反語
【汝をこゝに】汝にわが非難をも安んじて聞くをえせしむる
一三〇―一三二
他のイタリアの市民の中には心に正義の念を宿せども言責を重んじて漫りに口にせざる者多し、然るにフィレンツェの市民は心にもなき正義を口にす
一三三―一三五
【公共の荷】公職。フィレンツェの市民が私慾の爲に公職を貪るを罵れるなり
一三九―一四四
【ラチェデーモナ】ラケダイモン。スパルタ
【十月に紡ぐ】フィレンツェの法令の常に變じて定まらざるをいふ
一四五―一四七
【汝のおぼゆる】未だ幾年も經ざる間に
【民】一黨勢ひを得れば他黨逐はれ、市に住する者屡※[#二の字点、1−2−22]變ず
一四八―一五一
【光を見なば】物を見るの明あらば


    第七曲

ウェルギリウス、ソルデルロ(ソルデル)に己が身の上をあかせし後ダンテとともにこれに導かれて山腹の美しき一小溪にいたりこゝに著名の君主侯伯の靈を見る
四―六
【登りて】善人の魂すべてリムボにくだり、未だ淨火の山にゆかぎりしさき、即ちキリストの未だ世を去りたまはざりしさき
【オッタヴィアーン】オクタウィアヌス・アウグストゥス(淨、三・二五―七註參照)
七―九
【他の罪】地、四・三七以下參照。
一三―一五
【抱くところ】膝より下
一六―一八
【我等の言葉】ラテン語
一九―二一
【功徳】ソル
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