二の字点、1−2−22]目を擧ぐれども益なかりき 八二―八四
彼曰ふ。汝等何を欲するや、その處にてこれをいへ、導者いづこにかある、漫りに登り來りて自ら禍ひを招く勿れ。 八五―八七
わが師彼に答へて曰ふ。此等の事に精《くは》しき天の淑女今我等に告げて、かしこにゆけそこに門ありといへるなり。 八八―九〇
門守《かどもり》ねんごろに答へていふ。願はくは彼|幸《さいはひ》の中に汝等の歩みを導かんことを、さらば汝等我等の段《きだ》まで進み來れ。 九一―九三
我等かなたにすゝみて第一の段《きだ》のもとにいたれり、こは白き大理石にていと清くつややかなれば、わが姿そのまゝこれに映《うつ》りてみえき 九四―九六
第二の段は色ペルソより濃き、粗《あら》き燒石にて縱にも横にも罅裂《ひゞ》ありき 九七―九九
上にありて堅き第三の段は斑岩《はんがん》とみえ、脈より迸る血汐のごとく赤く煌《きらめ》けり 一〇〇―一〇二
神の使者《つかひ》兩足《もろあし》をこの上に載せ、金剛石とみゆる閾のうへに坐しゐたり 一〇三―一〇五
この三の段をわが導者は我を拉《ひ》きてよろこびて登らしめ、汝うやうやしく彼に※[#「戸の旧字/炯のつくり」、第3水準1−84−68]《とざし》をあけんことを請へといふ 一〇六―一〇八
我まづ三度《みたび》わが胸を打ち、後つゝしみて聖なる足の元にひれふし、慈悲をもてわがために開かんことを彼に乞へり 一〇九―一一一
彼七のP《ピ》を劒《つるぎ》の尖《さき》にてわが額に録《しる》し、汝内に入らば此等の疵を洗へといふ 一一二―一一四
灰または掘上《ほりあげ》し乾ける土はその衣と色等しかるべし、彼はかゝる衣の下より二の鑰《かぎ》を引出《ひきいだ》せり 一一五―一一七
その一は金、一は銀なりき、初め白をもて次に黄をもて、かれ門をわが願へるごとくにひらき 一一八―一二〇
さて我等にいひけるは。この鑰のうち一若し缺くる處ありてほどよく※[#「戸の旧字/炯のつくり」、第3水準1−84−68]《とざし》の中《なか》にめぐらざればこの入口ひらかざるなり 一二一―一二三
一は殊《こと》に價|貴《たふと》し、されど一は纈《むすび》を解《ほぐ》すものなるがゆゑにあくるにあたりて極めて大なる技《わざ》と智《さとり》を要《もと》む 一二四―一二六
我此等をピエルより預かれり、彼我に告げて、民わが足元にひれふさば、むしろ誤りて開くとも誤りて閉《と》ぢおく勿れといへり。 一二七―一二九
かくて聖なる門の扉を押していひけるは。いざ入るべし、されど汝等わが誡めを聞け、すべて後方《うしろ》を見る者は外《そと》に歸らむ。 一三〇―一三二
聖なる門の鳴《なり》よき強き金屬《かね》の肘金《ひぢがね》、肘壺《ひぢつぼ》の中にまはれるときにくらぶれば 一三三―一三五
かの良きメテルロを奪はれし時のタルペーアも(この後これがために瘠す)その叫喚《わめ》きあらがへることなほこれに若かざりしなるべし 一三六―一三八
我は最初《はじめ》の響きに心をとめてかなたにむかひ、うるはしき調《しらべ》にまじれる聲のうちにテー・デウム・ラウダームスを聞くとおぼえぬ 一三九―一四一
わが耳にきこゆるものは、あたかも人々立ちて樂《がく》の器《うつは》にあはせてうたひその詞きこゆることあり 一四二―一四四
きこえざることある時の響きに似たりき 一四五―一四七
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   第十曲

我等門の閾の内に入りし後(魂の惡き愛|歪《ゆが》める道を直《なほ》く見えしむるためこの門開かるゝこと稀なり) 一―三
我は響きをききてその再び閉されしことを知りたり、我若し目をこれにむけたらんには、いかなる詫《わび》も豈この咎にふさはしからんや 四―六
我等は右に左に紆行《うね》りてその状《さま》あたかも寄せては返す波に似たる一の石の裂目《さけめ》を登れり 七―九
わが導者曰ふ。我等は今|縁《ふち》の逼らざるところを求めてかなたこなたに身を寄するため少しく技《わざ》を用ゐざるをえず。 一〇―一二
この事我等の歩みをおそくし、虧けたる月|安息《やすみ》を求めてその床に歸れる後 一三―一五
我等はじめてかの針眼《はりのめ》を出づるをえたり、されど山|後方《しりへ》にかたよれる高き處にいたりて、我等自由に且つ寛《ゆるや》かになれるとき 一六―一八
われ疲れ、彼も我も定かに路をしらざれば、われらは荒野《あらの》の道よりさびしき一の平地《ひらち》にとゞまれり 一九―二一
空處に隣《とな》れるその縁《へり》と、たえず聳ゆる高き岸の下《もと》との間は、人の身長《みのたけ》三|度《たび》はかるに等しかるべし 二二―二四
しかしてわが目その翼をはこぶをうるかぎり右にても左にてもこの臺《うてな》すべて斯《かく》の如く見えき 二五―二七
我等の足未だ
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