iに因みてこの名あり
神話に曰、ヘラ(ジュノー)神夫ゼウスがアイギナを愛せるを怨み疫癘の禍ひをアイギナ(乃ち女神の住めるとこる)に下せり、人畜悉く斃れ死したゞ殘れるものはアイギナの子エアコありしのみ、エアコ樫のほとりに立ちて蟻群の樹皮を上下するを見、かくの如く多くの民を新に與へられんことを父ゼウスに請へり、ゼウス即ち蟻を變じて人となし民再びアイギナに滿つ(オウィディウスの『メタモルフォセス』七・五二三以下)
七三―七五
【瘡】癩病の
七六―八一
【心ならず】早く馬の手入を終りて臥床に入らんとおもふ僕
八八―九〇
【ラチオ人】イタリア人
九七―九九
二人背を合せて凭れゐたるがむき直りてダンテを見しなり
一〇〇―一〇二
【身をいとちかく我によせ】或ひは、心を全く我にむけ
一〇三―一〇五
【第一の世】世界
【多くの日輪の下に】多くの年の間
一〇九―一一七
【我】十三世紀の半の人にて名をグリッフォリーノといへりと古註に見ゆ
【アールベロ・ダ・シエーナ】傳不詳
【デーダロ】ダイダロス。イカルスの父、翼を作りてクレタ島を脱せるもの(地、一七・一〇六―一四註參照)
【子となすもの】シエーナの僧正を指せりといふ、されどその名もまたアールベロの父なりしや單に恩人なりしやも明かならず
一一八―一二〇
【錬金の術】科學の研究を目的とせずして人を欺くを目的としたればなり
一二四―一二九
【癩を病める者】カポッキオ(一三六行)、シエーナ人の虚榮心を罵れるダンテの言に答へてストリッカ、ニッコロ等は例外なりといひ皮肉の反語を用ゐしなり
【ストリッカ】シエーナの者、傳不詳
【ニッコロ】同上、丁子の香料を燒鳥に加味してくらへりといふ(一説には丁子を炭の代りに用ゐこれにて雉子鷄等を燒けりともいふ)
【園】酒食に耽る人々の間
或曰、シエーナの町のことゝ
一三〇―一三二
【一晩】ブリガータ、スペンデレッチヤ(浪費隊)と名づくる一隊、十三世紀の後半シエーナ市中富豪の子等十二人相結んでこの一隊を組成し各自莫大の金を抛つて一高樓を營み日夜遊樂を事とす、ストリッカ、ニッコロ、カッチア、アッパリアート皆これに屬せりといふ
一三六―一三八
【カポッキオ】錬金の術によりて人を欺けるため一二九三年シエーナ市にて火刑に處せられし者、註或ひはフィレンツェの人とし或ひはシエーナの人とす、その言ふところによりてダンテと相識の間なりしことしるべし


    第三十曲

詩人等なほ第十嚢の堤をゆき詐僞によりて地獄に落ちし罪人の中姿を變へて欺ける者貨幣のまがひを造れるもの及び言によりて欺ける者を見る。
一―三
ヘラはゼウスがテバイ王カドモスの女セメレを愛せるを怨み、カドモスの全家に禍ひを下せることあり(オウィディウスの『メタモルフォセス』三・二五三以下參照)
【しば/\】カドモスの甥アクタイオンの横死、セメレの妹アガウエがわが子ペンテウスを殺せること等
四―六
【アタマンテ】アタマス。カドモスの女イノの夫にてテバイの王となれる者、イノが姉セメレの子バッコス(乃ちゼウスとセメレの間の子)を養育してヘラの怒りを招けるより禍ひアタマスに及びて心狂ふにいたれるなり
【妻】イノ
【男子】レアルコスとメリケルテス
七―九
オウィディウスの『メタモルフォセス』に曰く、いぎ侶よ網をこの林に張るべし我今こゝに二匹の仔ある牝獅子を見たりと(四・五一三)
一〇―一二
【荷】メリケルテス
一三―一五
【王】プリアモス(地、一・七三―五註參照)
一六―二一
【エークバ】ヘカベ。プリアモスの妻、トロイア城陷落の後虜はれてギリシア軍中にあり
【ポリツセーナ】ポリュクセナ、ヘカベの女、トロイアよりの歸途トラキヤに立寄れるギリシア軍アキレタスの靈を慰めんため(地、五・六四―六註參照)ポリュクセナをその墓前に殺せり(オウィディウスの『メタモルフォセス』一三・四三九以下)
【ポリドロ】ポリュドロス。ヘカベの子なり、ヘカベ、ポリュクセナの骸を淨めんとて海濱にゆきこゝにトラキヤ人に殺されしわが子ポリュドロスを見出せるなり(地、一三・四六―八註參照)
二二―二七
テバイのアタマス、トロイアのヘカベを狂はしめその他獸をも人をも狂はしむる瞋恚の一念
三一―三三
【アレッツォの者】グリッフォリーノ(地、二九・一〇九)
【ジャンニ・スキッキ】フィレンツェ市カヴァルカンティ家の一人
フィレンツェの貴族ブオソ・ドナーティなる者死するにあたりその子(或曰弟)シモン父が遺産の多くを他人に讓らんとするの意あるを察し遺言書を作らしめずブオソ死して後ジャンニに説き、これを床に臥さしめブオソ未だ死せざるが如く裝ふ、かくてジャンニは巧みに死者の聲調を似せて公吏を詐りこれに型の如くなる遺言書を認めしめきといふ
三七―三九
【ミルラ】神話に曰、ミルラはキュプロス島の王キニュラスの女なり、非倫の慾を滿たさんため變裝して己が父を欺きこれと罪を犯すにいたれり(オウィディウスの『メタモルフォセス』一〇・二九八以下)
四〇―四五
【群の女王】ブオソの所有せる騾馬、この騾馬は當時トスカーナ州第一と稱せられし名馬なりければスキッキは前記遺言書の中に一項を加へてこれを己の所有とをせり
五二―五四
水分の營養化せざるもの惡所に停滯して身ために權衡を失ひ顏瘠せ腹脹る
五五―五七
【エチカ】熱病の一種
五八―六三
【マエストロ・アダモ】プレシヤの人
【水の一滴】ルカ、一六・二四富者の言に、父アブラハムよ我を憐みてラザロを遣はし指の尖を水にひたしてわが舌を冷やさせ給へ
六四―六六
【カセンティーン】カセンティーノ。アペンニノ山間アルノの溪の一地方
七〇―七二
神の正義はわが犯罪地なるカセンチィーノのあたりの水ゆたかに空氣涼しき處を我に思ひ起さしめ、これによりて却つてわが苦を増しわが歎きを大ならしむ
七三―七五
【ロメーナ】カセンティーノの城。グイード伯爵家の所有たり
【バッティスタの像】フィレンツェの貨幣は一面に守護神なる洗禮者ヨハネの像あり一面にこの市のしるしなる百合の花形ありしなり
【燒かれし】アダモはカセンティーノ附近のコンスマといふ處にてフィレンツェ人により火刑に處せらる(一二八一年)
七六―七八
【グイード、アレッサンドロ、彼等の兄弟】グイード、アレッサンドロ及びアージノルフォ。ロメーナの伯爵にて三人共兄弟なり、アダモに勸めて通貨を贋造せしむ
【フォンテ・ブランダ】シエーナなるフォンテ・ブランダ(泉の名)最も名高く古註皆これをもつてダンテの指すところとす、されどその後ロメーナ附近に同名の泉あること知れ(フラティチェルリ註參照)近代之をあぐる註疏家多し
七九―八一
【ひとり】グイードなるべしといふ
【身繋がる】病ひの爲に動く能はざるをいふ
八二―八七
【十一哩】第十嚢の周圍はまさしく第九嚢の半にあたれり(地、二九・九)、地獄全體の大なることしるべし、されど或ひはこれを標準として第八嚢を四十四第七嚢を八十八哩と計算する人あるも思ふにこれ必ずしも詩人の意にあらじ
八八―九〇
【カラート】一※[#「オンス」の単位記号、307−7]の二十四分の一フィレンツェの金貨は二十四カラートの金なるにアダモの贋造貨幣は二十一カラートの金に三カラートの混合物を加へしものなり
【フィオリーノ】フィレンツェの本位貨幣。一面に花(フィオレ)の形あるよりかく名づけしもの
九四―九六
【巖間】greppo は、破鉢(古義)
九七―九九
【僞りの女】エヂプト王パロの司なるポテパルの妻、ヤコブの子ヨセフに思ひを懸けその己の意に從はざるをうらみて無實の罪をこれに責はしむ(創世記三九・六以下)
【シノン】トロイア軍中ギリシア人の殘せる木馬(地、二六・五八―六〇註參照)に就きての評定まち/\にして容易に決せざりし時シノンは恰もギリシア軍に背きて逃れ來りしものゝ如くみせかけ王プリアモスに近づきて巧みに辯を弄し遂に木馬を城内に曳入らしむ(『アエネイス』二・五七以下)
一〇三―一一五
【これにも】シノンの拳にも
一〇九―一一一
【火に行ける】火刑に處せられし時はその手縛られて動かすをえざりしなり
一一二―一一四
【トロイアにて】王プリアモスに木馬のことを問はれし時
一一五―一一七
【鬼より多し】貨幣の數即ち罪の數なり(地、一九の一一四參照)
一一八―一二〇
【誓ひ】『アエネイス』二・一五二以下にシノンが手をあげて日月星辰を指しその言の眞なるを證せしこといづ、馬は即ち木馬なり
一二四―一二六
汝世にある日僞りの口を開き身の禍ひを招ける如く今も我を罵りて却つて我にいひこめらる
【己が禍ひのために】異本、惡をいはんため
一二七―一二九
【ナルチッソの鏡】水
ナルチッソ(ナルキッソス)の物語はオウィディウスの『メタモルフォセス』三・四〇七以下にいづ、ある河神の子なりき嘗て水を呑まんとて澄める泉のほとりにいたり水にうつれる己が姿を見之を慕ふあまりに此處を放れずして死せり
一三〇―一三二
【少しく愼しむべし】Or pur mira! 思ひのまゝにみよと裏をいへるなりとの説あり
一三六―一三八
【すでに然るを】事實夢なるを夢ならざる如く
一三九―一四一
あまりに恥ぢかつ惑へるため却つて詫の詞出ねばこの無言の表情乃ち是詫なるを思はずしてなほ詞をもて詫びんとせるなり


    第三十一曲

かくして後最後の岸を横ぎりマーレボルジェ中央の坎にいたればこゝに多くの巨人ありその一アンテオなる者導者の請に從ひ兩詩人を第九の地獄におくる
一―三
【舌】ウェルギリウスの
【先には】地、三〇・一三一―二
【染め】恥、頬を赤く染めしなり
【藥】慰藉(地、三〇・一四二以下)
四―六
【槍】父ペレウスより傳はりしアキレウスの槍。傳説に曰、アキレウスの槍に突かれて傷をうけし者再びその槍に突かるれば傷癒ゆと
この槍トロイアのテレフオスを傷つけ後その疵を癒せることオウィディウスの『メタモルフォセス』一二・一一二、一三・一七一等にいづ
一〇―一五
【角笛】七〇―七二行註參照
一六―一八
【カルロ・マーニオ】シャルルマーニュ大王(七四二―八一四年)。イスパニヤ遠征の際此國の東北ロンチスバルレなるその後陣、敵の襲撃を受けて難戰苦鬪す、後陣の將ローラン(或ひはオルランド、シヤルルの甥なり)衆寡敵せざるを知り救ひをシャルルに求めんため角笛を吹きしに笛聲遠く響きわたりて既にこの地を距る四里なりしシヤルルの耳に達せりといふ、有名なるフランス中古の史詩『ローランの歌』にくはし
【聖軍】十字軍なれば
三一―三三
【巨人】神話の巨人、己が力を恃みて神に逆へる者
ムーア曰、ダンテが巨人の一群をこの處に置けるは『アエネイス』六・五八〇―八一に、地の古の族ティタンの子等(巨人)雷に撃たれてかくいと深き處にきまろべりとあるに基づくと
【坎】(地、一八・五)第九の地獄この底にあり、巨人等足を氷に觸れ半身を坎の外にあらはす
三七―三九
【誤り】巨人を櫓とおもへる誤り
四〇―四五
【モンテレッジオン】シエーナの北約九哩にある城にて圓き高き城壁の上にさらに十四個の櫓ありきといふ
【ジョーヴェ】ゼウス。フレーグラの戰ひ(地、一四・五五―六〇並びに註參照)にゼウス神雷にて巨人等を撃ち滅ぼせる事あればなり
四九―五一
巨人等新に生るゝことなければかくの如く剽悍獰猛の勇士(軍神アレスに事ふるものは乃ち戰士なり)跡を世に絶つにいたれり
五五―五七
【心の固め】智能、象鯨の類は巨大にして力餘りあれども智足らざれば危險ならず、此故に自然は巨人を滅ぼして象と鯨とを生存せしむ
五八―六〇
【松毬】青銅製の松毬にて長約七呎半あり、ローマ皇帝ハドリアヌスの廟を飾らんため作られしものと傳へらる、當時ローマ聖ピエートロの寺院の構内にありしが今はヴァチカンの宮殿内松毬の園と稱する園の中にあり
六一―六六
【フリジア人】大男の稱あるフリジア(オランダの北)人。三人の丈を繼合はすともその髮に達し能はざるべし
【三十パルモ】約二十一呎(頸より臍までの長)なり
六七―六九
バベル高塔の事によりて言語の亂れたる有樣をあらはさ
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