y口】墓の
【一の魂】カヴァルカンテ・カヴアルカンティ、グエルフィ黨に屬せり、ファーリナータと同じく來世の存在を信ぜざりきといふ
五八―六〇
【わが兒】グイード・カヴァルカンティ、ダンテが『新生』三・九八―九にわが第一の友といへるもの、詩を書くしまた哲學に通ぜり、十三世紀の半フィレンツェに生る、一三〇〇年黒白兩黨の爭ひこゝに起れる時故ありて白黨に與し、これがためにフィレンツェの西北なるサルツァーナに幽せられ病を得、郷に歸りて死す(同年八月)、グイードの妻はファーリナータの女なり
カヴァルカンテはわが兒グイードの才ダンテに劣るまじきとまたそのダンテの親しき友なるをおもひてかくいへるなり
六一―六三
【侮りし】義不明、ドヴィディオ(D' Ovidio)はこは『アエネイス』の著者としてのウェルギリウスに對するグイードの態度をいへるに外ならずとし兩者の趣味詩風の相違を論じかつグイードのエピクロス派的傾向若しこの問題に聯關せば『アエネイス』にあらはれし宗教思想來世の状態の記述等この傾向と相反するの謂なるべしといへり
六四―六六 その言によりて友の父なるを知りその罰によりてエピクロスの末流なるを知る
六七―六九 侮るといはずして侮りし[#「りし」に傍点]といひ過去の動詞を用ゐたるをあやしめるなり
【光】日の
七三―七五
【請ひて】二二―四行
七六―七八
【床】燃ゆる墓
七九―八一
ファーリナータの豫言なり、曰く、汝は今より五十ケ月以内に郷里に歸ることのいかばかり難きやを自ら味ひ知るなるべしと
【女王】魔王プルートの妻ペルセポネ(地、九・四三―五註參照)神話によりて月と見做せるなり
八二―八四
【願はくは】物を請ふにあたりて請はるゝ人の幸を希ふ意を陳ぶ、以下この例甚だ多し
【わが宗族】四九―五一行註參照
八五―八七
【アルビア】トスカーナ州の川の名、有名なるモンタペルティの戰場(シエーナの東南六十餘哩)はこの河畔にあり、一二六〇年九月四日追放されしフィレンツェのギベルリニ黨シエーナ人と合してフィレンツェのグエルフィ黨と戰ひ大いに之を敗る(三一―三三行註參照)
【祈りを】再び政權をフィレンツェにえしグエルフィ黨はモンタペルティの殺戮を惡むのあまりかくウベルティ家に不利なる法令を出してその郷土にかへるをゆるさず
【神宮】註釋者曰ふ、當時聖ジョヴアンニの寺院をフィレンツェ高官の議場にあてたればこれに因みて法令を祈りといへるなりと
八八―九〇
【かの事】モンタペルティの戰ひ
九一―九三
【處】エムポーリ、フィレンツェの西十九哩なるアルノ河畔の町、モンタペルティの戰ひの後ギペルリニ黨の人々この處に相會し後日の累を免かれんためフィレンツェ破壞の事を議せしがファーリナータ一人の劇烈なる反對ありて議遂に成るに至らざりきといふ
九七―九九
汝等は未來の事を知りてしかも現在の事に暗きに似たり、ファーリナータはダンテの未來を豫知しカヴァルカンテはわが兒の生死を知らず
一〇〇―一〇二
【光備はらざる】遠視眼の
こゝに我等といへるは地獄全體の罪人を指せるか第六の地獄の罪人のみを指せるか明かならざるに似たれども註釋者多くは之をもて全地獄の罪人と解せり、地、二七・二五以下にグイード・ダ・モンテフェルトロがローマニアの現状をダンテに問ひし如きまたこの例に洩れず、罪人の未來を豫言せる例は處々に見ゆれども現在の事を語れる例はたゞ第六曲のチヤッコの物語にあるのみ(地、六・四九以下、同七三)、さればむしろチヤッコを例外と見做すかた自然なるべし
一〇六―一〇八
最後の審判の日至れば未來の門は閉されて永遠の門開かる、未來既に消滅すれば未來の事にかぎられし罪人の知識は從つて全く消滅す
一〇九―一一一
【咎】カヴァルカンテの問に直ちに答へざりしこと(七〇―七一行)
一一八―一二〇
【フェデリーコ】有名なるローマ皇帝フリートリヒ二世(一一九四―一二五〇年)、エピクロスの徒と見做されし者
【カルディナレ】オクタヴィアーノ・デーリ・ウバルディニ、一二四五年カルディナレとなり、同七三年に死す、ギベルリニ黨に屬しエピクロスの流れを汲める者にて死に臨み、たとひ世に魂なるものありとも我は既にギベルリニ黨のためにこれを失へりといへりと傳へられる
一二七―一二九
【わが言に】原、こゝに
【指を擧げたり】ダンテの注意を促すため
一三〇―一三二
【淑女】ベアトリーチェ。ベアトリーチェ、ダンテにすゝめてカッチャグイーダにその生涯の事を問はしむ(天、一七・七以下)
一三三―一三五
【溪】第七の地獄


    第十一曲

第六の地獄を去るに臨みウェルギリウスはこれよりめぐるべき三の地獄の構造とその中なる罪人の分類を論じディーテ城門の内と外との罪を比較しさらに高利を貪る者の罪を擧げてダンテに教ふ
一―三
【岸】第六と第七の地獄の間の(第十二曲の始めにくはし)
四―九
【フォーチン】フォティヌス、テッサロニアの僧、チェーザレア(パレスチナにあり)の僧正アカキウスが異端の故をもて僧籍より除名されしことありしときフォティヌス彼のために復籍を取りはからはんとてローマにいたれり
【アナスターショ】法王アナスタシウス二世(四九六年より同八年まで在位)、ローマの人、當時東西二派の寺院異端につきて爭へるにアナスタシウスその調停に志しその頃ローマに來れるフォティヌスを屡※[#二の字点、1−2−22]引見せるより己もまた異端に陷れるが如くおもはるゝにいたりしなりといふ
一六―一八
【次第】大小高低次をなすこと
一九―二一
【見るのみにて】罪人の種類をウェルギリウスに問ふ(地、三・三三、七三、四・七四等)に及ばざるため
三一―三三
【屬けるもの】神に屬するものは自然と神恩、人に屬するものはその持物(三四行以下)
四〇―四五
第七の地獄第二圓に罰せらるゝ浪費者は第四の地獄に罰せらるゝ放縱なる浪費者と異なり博奕またはこの類の事により人の不利をわが利となさんとするものなり
【喜ぶべき處】地上、生命財産は善用して幸に入るの階段となすべきを惡用して自ら悲歎の境界に陷るなり
四九―五〇
【ソッドマ】男色即ち自然に反する罪(創世記第一九章)
【カオルサ】高利貸即ち神の恩惠(自然の賜なる財寶)にむかひて暴を行ふ罪、カオルサはフランスの南にある一都會(カオルス)の名なり、中古、高利貸の極めて多かりしところなりければかくいふ
【封ず】默示録、二〇・三參照
五二―五四
【心これによりて】豫め深くたくらみて人を欺くが故にこれを行ふ人、本心に痛みを感ぜざるはなし
五五―六〇
己に特殊の關係なきものを欺くは人間相愛の道に背くなり
第八の地獄なる各種罪惡の分布左の如し
[#ここから2字下げ]
僞善     第六嚢  地、二三
諂諛     第二嚢    一八
惑はす者   第四嚢    二〇
詐欺     第十嚢 二九、三〇
竊盜     第七嚢 二四、二五
シモニア   第三嚢    一九
判人     第一嚢    一八
汚吏     第五嚢 二一、二二
[#ここから4字下げ]
外にこのたぐひの汚穢
[#ここから2字下げ]
詐りの謀   第八嚢 二六、二七
爭ひを蒔く者 第九嚢    二八
[#ここで字下げ終わり]
【シモニア】僧官及び其他の神聖なる物を賣買すること、この語の出處につきては地、一九・一―六註參照
【汚吏】baratti 公私に論なく己が職務を利用して益をはかる者
【第二の】これよりめぐらんとする獄の中の第二、即ち全體よりいへば第八の獄
六四―六六
【ディーテ】地獄王ルキフェル(地、八・六七―九註參照)
七〇―七二
デイーテ城外の諸地獄にある者(第五、第二、第三、第四)
七九―八四
【汝の倫理】アリストテレスの倫理學第七卷の始め
ダンテの分類とアリストテレスの分類とは同一にあらず、ダンテの邪惡はアリストテレスの邪惡とその義を異にすムーア博士曰、ダンテはまづアリストテレスにより、地獄に罰せらるべき凡ての罪をば情を制する能はずして犯せる罪と痼疾の罪との二にわかちさらにキケロにより、後者を力と欺の二にわかてるなりと(『ダンテ研究』第二卷一五八頁以下)
八五―八七
【上に外に】地獄の上方ディーテの門外
八八―九〇
【復讎】異本、正義
九一―九六
【汝の言】四六行以下
九七―一〇五
【その枝】神が自ら定めたまひし故に從ひてその業をなしたまふこと
【汝の理學】アリストテレスの『理學』(フィージカ)二卷二・七
【孫】人間の技は自然よりいで自然は神よりいづ、故に人間の技は神の孫の如し
一〇六―一〇八
【二のもの】自然と技、即ち人は自然に倣ひその法に從つて努力し神の賜を自然の中に求むべきものなること
【創世記】創世記三・一九に曰く、汝顏に汗して食を得べし
一〇九―一一一
高利を貪る者は神の定むるところに反し自然の恩惠と自己の努力によりて富を求むることをなさずたゞ貨をして貨を生ましむるの道をとりその望みを不正の利益におきて自然とその從者なる人間の技とをないがしろにす
一一二―一一四
【雙魚】雙魚宮は白羊宮にさきだつ天の十二宮の一、この時太陽は白羊宮にあり(地、一・三八)そのあらはるゝは雙魚の星に後るゝこと約二時間なり、故に兩詩人がアナスタシウスの墓側を離れしは日出前約二時間乃ち四月九日年前四時の頃なるべし
【コーロ】西北の風、こゝには西北の空の意


    第十二曲

詩人等斷崖を下りて第七の地獄第一の圓にいたればこゝに血の流れあり他人にむかひて暴なるものを煮またあまたのケンタウロス(チェンタウロ)ありて掟に從はざるものを射る、その一ネッソス(ネッソ)ウェルギリウスの請ひによりダンテを負ひて淺瀬を渡り第二の圓にむかふ
一―三
【物】一一行以下のミノタウロス(ミノタウロ)
四―六
【トレント】イタリア北方の山地にある町(チロルの南)
【アディーチェ】川の名、チロルよりいでヴェロナの市街を貫流し北イタリアの平野を過ぎてアドリアティコ海に入る
山壞れのありしところはトレントとヴェロナ兩市の間なるロヴェレートの町に近き處にてスラヴィーニ・ディ・マルコといひ一三〇二年ダンテ逐はれてヴェロナに客たりし時親しく見し處と傳へらる
一〇―一五
【くだけし坎の端】破岩により成る第六獄の端
【クレーチの名折】ミノタウロス(ミノタウロ)
神話に曰、ミノタウロスは牛頭人體の怪物なり、その母パシファエ(パシフエ)(淨、二六・四一)はクレタ(クレーチ)島(ギリシアの南地中海にあり)の王ミノス(地、五・四にみゆるミノスの孫)の妻なりしが海神ポセイドンよりミノスに賜はれる牡牛を慕ひ當時の名匠ダイダロスの造れる木製の牝牛の中に入りて遂にミノタウロスを生むに至れり
一六―一八
【アテーネの公】テセウス(テゼオ)
神話に曰、ミノスはミノタウロスの生れしを恥辱とし、ダイダロスの造れる一迷宮の中にこれを幽して外に出づるをなからしめ且つ年々若き男女各※[#二の字点、1−2−22]七人をアテナイに課してこの怪物の食に宛てたり、アテナイ王アイゲウスの子テセウス(地、九・五四)ミノスの不法を憤り海を渡りてクレタに赴きまづミノスとパシファエの間に生れしアリアドネ(乃ち、汝の姉妹)の歡心を得その教に從ひ歸路に迷ふことなからんため絲を身に結びて迷宮に入りミノタウロスを殺せり
三四―三六
【地獄に下れる】エリトネ(エリトン)の命をうけて(地、九・二二以下)
三七―三九
【ディーテ】地獄の王ルキフェル(ルチーフェロ)
キリスト地獄にくだり第一の獄乃ちリムボにとゞまる人類の始祖アダムの魂をはじめ多くの魂をルキフェルの手より奪ひ去りしことあり(地、四・五二以下)この時より少しく前といへるは即ちキリスト磔殺の時を指せるなり、地獄内の岩の壞れを教祖磔殺の時に起れることゝなせるはマタイ、二七・五一に、地震ひ岩裂け云々とあるによれり
四〇―四五
【宇宙愛に】エムペドクレス(地、四・一三八)の説を指せり
エムペドクレス思へらく宇宙は愛と憎の如き異分子の結合によりてその常の状態を持續するものなれば若し一方の力勝ち類その類と相合
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