とや》を過ぎてかなたの岸にいたれるに、こゝに一の泉ありて湧きこゝより起れる一の溝《みぞ》にそゝげり 一〇〇―一〇二
水の黒《くろ》きことはるかにペルソにまさりき、我等|黯《くろず》める波にともなひ慣れざる路をつたひてくだりぬ 一〇三―一〇五
この悲しき小川はうす黒き魔性の坂の裾にくだりてスティージェとよばるゝ一の沼となれり 一〇六―一〇八
こゝにわれ心をとめて見んとて立ち、この沼の中に、泥にまみれみなはだかにて怒りをあらはせる民を見き 一〇九―一一一
かれらは手のみならず、頭、胸、足をもて撃ちあひ、齒にて互に噛みきざめり 一一二―一一四
善き師曰ふ、子よ、今汝は怒りに負《ま》けしものゝ魂を見るなり、汝またかたく信すべし 一一五―一一七
この水の下に民あることを、かれらその歎息《ためいき》をもて水の面に泡立たしむ、こはいづこにむかふとも汝の目汝に告ぐる如し 一一八―一二〇
泥《ひぢ》の中にて彼等はいふ、日を喜ぶ麗しき空氣のなかにも無精《ぶせい》の水氣を衷にやどして我等鬱せり 一二一―一二三
今我黒き泥水《どろみづ》のなかに鬱すと、かれらこの聖歌によりて喉に嗽《うがひ》す、これ全き言《ことば》にてものいふ能はざればなり 一二四―一二六
かくして我等は乾ける土と濡れたる沼の間をあゆみ、目を泥を飮む者にむかはしめ、汚《きたな》き瀦《みづたまり》の大なる孤をめぐりて 一二七―一二九
つひに一の城樓《やぐら》の下《もと》にいたれり 一三〇―
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   第八曲

續いて語るらく、高き城樓《やぐら》の下《もと》を距るなほいと遠き時、我等は目をその頂に注げり 一―三
これ二《ふたつ》の小さき焔のこゝにおかるゝをみしによりてなり、又|他《ほか》に一《ひとつ》之と相圖を合せしありしも距離《あはひ》大なれば我等よく認むるをえざりき 四―六
こゝにわれ全智の海にむかひ、いひけるは、この火何といひ、かの火何と答ふるや、またこれをつくれるものは誰なりや 七―九
彼我に、既に汝は來らんとすることを汚《けが》れし波の上に辨《わか》ちうべし、若し沼の水氣これを汝に隱さずば 一〇―一二
矢の絃《つる》に彈《はじ》かれ空を貫いて飛ぶことはやきもわがこの時見し一の小舟には如かじ 一三―一五
舟は水を渡りて、我等のかたにすゝめり、これを操《あやつ》れるひとりの舟子《ふなこ》よばゝりて、惡しき魂よ
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