この憂ひの路にみちびかれけん 一一二―一一四
かくてまた身をめぐらしてかれらにむかひ、語りて曰ひけるは、フランチェスカよ、我は汝の苛責を悲しみかつ憐みて泣くにいたれり 一一五―一一七
されど我に告げよ、うれしき大息《といき》たえぬころ、何によりいかなるさまにていまだひそめる胸の思ひを戀ぞと知れる 一一八―一二〇
かれ我に、幸《さち》なくて幸ありし日をしのぶよりなほ大いなる苦患《なやみ》なし、こは汝の師しりたまふ 一二一―一二三
されど汝かくふかく戀の初根《うひね》をしるをねがはゞ、我は語らむ、泣きつゝかたる人のごとくに 一二四―一二六
われら一日こゝろやりとて戀にとらはれしランチャロットの物語を讀みぬ、ほかに人なくまたおそるゝこともなかりき 一二七―一二九
書《ふみ》はしば/\われらの目を唆《そゝの》かし色を顏よりとりされり、されど我等を從へしはその一節《ひとふし》にすぎざりき 一三〇―一三二
かの憧《あこが》るゝ微笑《ほゝゑみ》がかゝる戀人の接吻《くちづけ》をうけしを讀むにいたれる時、いつにいたるも我とはなるゝことなきこの者 一三三―一三五
うちふるひつゝわが口にくちづけしぬ、ガレオットなりけり書《ふみ》も作者も、かの日我等またその先《さき》を讀まざりき 一三六―一三八
一《ひとつ》の魂かくかたるうち、一はいたく泣きたれば、我はあはれみのあまり、死に臨めるごとく喪神し 一三九―一四一
死體の倒るゝごとくたふれき 一四二―一四四
[#改ページ]

   第六曲

所縁の兩者をあはれみ、心悲しみによりていたくみだれ、そのため萎《な》えしわが官能、また我に返れる時 一―三
我わがあたりをみれば、わが動く處、わが向ふ處、わが目守《まも》る處すべて新《あらた》なる苛責|新《あらた》なる苛責を受くる者ならぬはなし 四―六
我は第三の獄《ひとや》にあり、こは永久《とこしへ》の詛ひの冷たきしげき雨の獄なり、その法《のり》と質《さが》とは新なることなし 七―九
大粒《おほつぶ》の雹、濁れる水、および雪はくらやみの空よりふりしきり、地はこれをうけて惡臭《をしう》を放てり 一〇―一二
猛き異樣の獸チェルベロこゝに浸れる民にむかひ、その三《みつ》の喉によりて吠ゆること犬に似たり 一三―一五
これに紅の眼、脂ぎりて黒き髯、大いなる腹、爪ある手あり、このもの魂等を爬き、噛み、また裂きて片々《
前へ 次へ
全187ページ中15ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
山川 丙三郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング