―七二
即ちかしこにロメーナとてわがバッティスタの像《かた》ある貨幣《かね》の模擬《まがひ》を造り、そのため燒かれし身を世に殘すにいたれる處あり 七三―七五
されど我若しこゝにグイード、アレッサンドロまたは彼等の兄弟の幸《さち》なき魂をみるをえばその福《さいはひ》をフォンテ・ブラングにもかへじ 七六―七八
狂ひめぐる魂等の告ぐること眞《まこと》ならば、ひとりはすでにこの中にあり、されど身|繋《つな》がるゝがゆゑに我に益なし 七九―八一
たとひ百年《もゝとせ》の間に一|吋《オンチヤ》をゆきうるばかりなりともこの身輕くば、この處|周圍《めぐり》十一|哩《ミーリア》あり 八二―八四
幅半哩を下らざれども、我は既に出立ちて彼をこの見苦しき民の間に尋ねしなるべし 八五―八七
我は彼等の爲にこそ斯かる家族《やから》の中にあるなれ、我を誘ひて三カラートの合金《まぜがね》あるフィオリーノを鑄らしめしは乃ち彼等なればなり 八八―九〇
我彼に、汝の右に近く寄りそひて臥し、冬の濡手《ぬれて》のごとく烟《けぶ》るふたりの幸なき者は誰ぞや 九一―九三
答へて曰ふ、我この巖間《いわま》に降《ふ》り下れる時彼等すでにこゝにありしが其後一|度《たび》も身を動かすことなかりき、思ふに何時《いつ》に至るとも然《しか》せじ 九四―九六
ひとりはジユセッポを讒《しこづ》りし僞りの女、一はトロイアにありしギリシア人《びと》僞りのシノンなり、彼等劇しき熱の爲に臭き烟を出すことかく夥《おびたゞ》し 九七―九九
この時そのひとり、かくあしざまに名をいはれしを怨めるなるべし、拳《こぶし》をあげて彼の硬き腹を打ちしに 一〇〇―一〇二
その音恰も太鼓の如くなりき、マエストロ・アダモはかたさこれにも劣らじとみゆるおのが腕をもてかの者の顏を打ち 一〇三―一〇五
これにいひけるは、たとひこの身重くして動くあたはずともかゝる用《もちゐ》にむかひては自在の肱《かひな》我にあり 一〇六―一〇八
かの者即ち答へて曰ふ、火に行ける時汝の腕かくはやからず、貨幣《かね》を造るにあたりてはかく早く否これよりも早かりき 一〇九―一一一
水氣を病める者、汝のいへるは眞《まこと》なり、されどトロイアにて眞を問はれし時汝はかかる眞の證人《あかしびと》にあらざりき 一一二―一一四
シノネ曰ふ、我は言《ことば》にて欺けるも汝は貨幣《かね》にて欺けるなり
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