るなる 一〇―一二
我之を聞きて答へて曰ふ、汝わがうちまもりゐたりし事の由《よし》に心をとめしならんには、わがなほ止まるを許し給ひしなるべし 一三―一五
かくかたる間も導者はすゝみ我は答へつゝうしろに從ひ、さらにいひけるは 一六―
わが目をとめし岩窟《いはあな》の中には、おもふにかく價高き罪をいたむわが血縁の一の靈あり ―二一
この時師曰ひけるは、汝今より後思ひを彼のために碎くなかれ、心をほかの事にとめて彼をこゝに殘しおくべし 二二―二四
我は小橋のもとにて彼の汝を指示《さししめ》し、指をもていたく恐喝《おびや》かすを見たり、我またそのジェリ・デル・ベルロと呼ばるゝを聞けり 二五―二七
汝は此時嘗てアルタフォルテの主なりしものにのみ心奪はれたればかしこを見ず、彼すなはち去れるなり 二八―三〇
我曰ふ、わが導者よ、彼はその横死の怨みのいまだ恥をわかつものによりて報いられざるを憤り 三一―
はかるにこれがために我とものいはずしてゆけるなるべし、我またこれによりて彼を憐れむこといよ/\深し ―三六
斯く語りて我等は石橋のうち次の溪はじめてみゆる處にいたれり、光こゝに多かりせばその底さへみえしなるべし 三七―三九
我等マーレボルジェの最後の僧院の上にいで、その役僧等《やくそうたち》我等の前にあらはれしとき 四〇―四二
憂ひの鏃《やじり》をその矢につけし異樣の歎聲《なげき》我を射たれば我は手をもて耳を蔽へり 四三―四五
七月九月の間に、ヴァルディキアーナ、マレムマ、サールディニアの施療所《せれうじよ》より諸※[#二の字点、1−2−22]の病みな一の濠にあつまらば 四六―
そのなやみこの處のごとくなるべし、またこゝより來る惡臭《をしう》は腐りたる身よりいづるものに似たりき ―五一
我等は長き石橋より最後の岸の上にくだり、つねの如く左にむかふにこの時わが目あきらかになりて 五二―五四
底の方《かた》をもみるをえたりき、こはたふとき帝《みかど》の使者《つかひ》なる誤りなき正義がその世に名をしるせる驅者《かたり》等を罰する處なり 五五―五七
思ふに昔エージナの民の悉く病めるをみる悲しみといへども、(この時空に毒滿ちて小さき蟲にいたるまで 五八―
生きとし生けるもの皆斃る、しかして詩人等の眞《まこと》とみなすところによればこの後古の民
蟻の族《やから》よりふたゝびもとのさまにかへさる)
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