得るであろう。
しかもこの『下等な生物ほど霊感が発達している』という原則こそは、本官が採《と》って以《もっ》て、この裁判に応用して、最後の断案を下さむと欲する、所謂第二の手段の憑拠《ひょうきょ》となるべき、根本原則に外ならないのである。
すなわち当法廷に参列しているレミヤ[#「レミヤ」は太字]所生の男児は、まだ東西を弁ぜざる嬰児《えいじ》である。しかも本官の調査するところに依れば、生れ落ちると間もない頃から母親の手に抱かれている間だけ温柔《おとな》しく、安らかに眠るに反して、他人が抱き取ろうとすると何もかもなく泣き出す習性がある。すなわちその真実の親を区別する霊感の如何に明敏なものであるかという事実を日常に証拠立てているものと認められるのである。
本官は確信する。レミヤ[#「レミヤ」は太字]の児は同じようにして本当の父親をその霊感に依って容易に区別し得るであろう事を……アルマ[#「アルマ」は太字]とマチラ[#「マチラ」は太字]の二人の中、自分の父親でない方が抱いたならば直ぐに泣き出すであろうと同時に、本当の父親が抱いたならば直ぐに泣き止むであろう事を……。
但し……この方法はいわば超常識的、もしくは超学理的の事実を根拠としたものであるから、あるいは牽強附会の誹《そしり》を免れ得ないであろう事を本官は最初から覚悟しているものである。
故に本官は今日只今職権を以てこの手段をこの法廷に強いようとするものではない。ただ、この方法以外にこの裁判を確定する手段は、恐らく絶無であろう事を信ずるが故に、敢て御迷惑をもかえり見ず、斯《か》く多数の御出席を要望した次第である。すなわち現代の常識を代表する陪審員諸氏。……科学智識を代表する参考人諸氏……及び……ハルスカイン[#「ハルスカイン」は太字]、イグノラン[#「イグノラン」は太字]両家の家庭の内事に対して、多少共に発言権を有しておられる限りの紳士淑女のすべてをこの法廷に招集して、その『かくの如き解決手段を用いるの止むを得ざるに出でた理由』を訴え、その公明正大なる判断による満場の御賛同を得た後に、この解決方法を採用したいと考えている者である。
然して、この前代未聞の裁判を確定したいと希望している者である」
(7)[#「(7)」は縦中横]
この演説が終りました時に満場の官民が一度に吐き出した溜め息は、お互
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