しました。
「……これは寧《い》っその事、思い切って、アルマ[#「アルマ」は太字]、マチラ[#「マチラ」は太字]の二人を呼び出して、同時にレミヤ[#「レミヤ」は太字]に引き合わせた方が早道になりはしまいか。そうして三人でトックリと相談をして、二人の中の一人を選む方法を決定させたらどんなものだろうか。今までの話のように第三者の吾々が選むとなるとドッチにしても不都合な点が出来て、怪《け》しからぬ状態に陥り易いが、三人が得心ずくで決める事なら、別に不公平にも不道徳にもならぬではないか、怪しかりようがないではないか。さもなくともイグノラン[#「イグノラン」は太字]兄弟はこの頃音信不通になっているにはいるらしいが、実をいうと故人夫婦に一番近しい親類だから、この際ハルスカイン[#「ハルスカイン」は太字]家の不幸を通知するのが当然の事ではないか。レミヤ[#「レミヤ」は太字]嬢にお悔《くや》みを云わせるのが至当ではないか」
……と……。これを聞きますと親類たちは皆、救け船に出会ったように喜びました。そうして言葉の終るのを待ちかねて、
「成る程それはステキな名案だ」
「どうして今までそこに気付かなかったろう」
「故人夫婦も、それに異存はないだろう」
「いかにもそれがいい……賛成賛成……」
というので、即座に満場一致の可決という事になりました。
私達兄弟が予想しておりました危険な運命は、こうして叔父叔母の死によって、思いがけもなく眼の前の事実となって押し寄せて来たのです。「ハルスカイン[#「ハルスカイン」は太字]家の最近い親類」という理由の下に、親類会議の代表者から否応《いやおう》なしに引っぱり出されて、ハルスカイン[#「ハルスカイン」は太字]家の祭壇の前で、無理やりに久し振りの挨拶を交換すべく余儀なくされましたレミヤ[#「レミヤ」は太字]と私達兄弟はタッタ一眼でもう、絶対の運命に運命づけられてしまったのです。お互いに永劫の敵となって一人の女性を争うべくスタート[#「スタート」は太字]を切らせられてしまったのです。そうしてそれからというものは三人が三人とも、ハルスタイン[#「ハルスタイン」は太字]家の別々の室《へや》に住んで、夜は別々に寝て、昼間は一ツ室で睨み合いながら、味も臭いもわからない山海の珍味を、三度三度|嚥《の》み込まなければならなくなったのです。
その間の恐ろしさと
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