ともレミヤ[#「レミヤ」は太字]の幼友達でありながら、一度もレミヤ[#「レミヤ」は太字]に手紙を出した事がない……のみならず学校を出てから後の居所も知らさないでいる事を、その時初めて気付いたのだそうです。そうしてそれと同時に私達二人の心づかいと、兄弟仲の親しさを、察し過ぎるくらい察してしまいましたので、その感心のしようというものはトテモ尋常ではなかったそうで御座います。二人が同時に涙を一パイ溜めた顔を見合わせて、
「二人が双生児でなかったらネエ。アナタ」
「ウーム。アルマチラ[#「マチラ」は太字]と名乗る一人の青年だったらナア」
 と同じ事を云いながら、長い長いため息を吐《つ》いたと、後でレミヤ[#「レミヤ」は太字]が話しておりました。
 レミヤ[#「レミヤ」は太字]の話によりますと叔父夫婦はそれから後というものは、その事ばかりを繰り返し繰り返し云って愚痴をこぼしていたそうです。
「ドッチでもいいから一人、自動車に轢《ひ》かれてくれないかナア」
 なぞとヒドイ蔭口を云った事もありましたそうで……。
「お前はアルマ[#「アルマ」は太字]とマチラ[#「マチラ」は太字]とどっちが好きなのかい?」
 とレミヤ[#「レミヤ」は太字]に尋ねた事も一度や二度ではなかったそうです。けれどもレミヤ[#「レミヤ」は太字]はいつも顔を真赤にして、
「どちらでも貴方がたのお好きな方を……妾《わたし》にはわかりませんから……」
 と答えたそうですが、これはレミヤ[#「レミヤ」は太字]の云うのが本当で、そんな下らない事をきく両親の方が間違っております。私と弟のドチラがいいかという事は神様でもきめる事が出来ないのですから……。
 けれども、そこが老人の愚痴っぽさというもので御座いましょうか。叔父夫婦は、それから後というもの考えれば考える程、娘の婿として適当な人間は私達二人以外にないようにシミジミと思われて来るのでした。申すまでもなく叔父達夫婦のそうした気持ちの中には、今までに手を尽して探しあぐんだ苦労づかれも交じっていたろうと思われるのですが、せめてドチラかに鵜《う》の毛で突いた程でもいいから欠点がありはしまいか。あったらそれを云い立てに、片っ方を落第させてやろうというので、私達兄弟の事を念入りに探らせてみたのですが、探らせれば探らせるほどその報告がコンガラガッてしまって、ドチラがドウなのかサッ
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