夫人探索
夢野久作
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)伯母《おば》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)又|空誉《くうよ》という高僧は
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一
「百万円あったら、ああしよう……こうしよう」
と空想していた青年中村芳夫は、思いもかけぬ伯母《おば》の遺産を受け継いで一躍百万長者になった。
芳夫は早速数万円を投じて素破《すば》らしい邸宅を建てた。そこに美姫と、美酒と、山海の珍味を並べて、友達を集めて昼夜兼行の豪遊をこころみたために、百万円は瞬く間に無くなって、些《いささか》なからぬ借財さえ出来た。その抵当に邸宅を取られた彼は、再びもとの通りの無一物になってしまった。
二
「不思議だ。奇怪だ。不可解だ。百万円を得ない前の自分と、失った後の自分との間には何等の相違もない。空想の百万円と実物の百万円とは、使用した結果から見ると全く同じものであった。おお百万円よ。お前は何のために自分に天降《あまくだ》ったのか。何故にかくも無意義に自分から消え去ったのか。おお百万円よ。お前はどこへ行った」
芳夫は腕を組んでこう考
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