す」という事は、内心大得意の場合に「どうだ、おれはえらいだろう」という気持から鼻をうそうそさせる、又は「オホン」とか「ウフン」とかいう気分が鼻の頭の処に浮き出して来る事を云うので、別嬪《べっぴん》の奥様御同伴の時、競技で勝った場合、試験に及第した時、わけても芸自慢の方が舞台に立たれる時なぞによく見受けられる表現であります。
 勿論この際その鼻の色合いや恰好は別にどうといって変化する訳ではありませぬ。眼や口とても格別鼻の表現に加勢をする訳ではないので、只チンと済ましてニッコリともしないのであります。そのままにこの気分がどことなく鼻の頭に浮き出して来るので、
「心の色が鼻にうつる」
 とは如何にもよくこの間の兼ね合いを云い現わしてあると、今更に感心させられるのであります。さらに、
「心の底の慢《おこた》りが最もよく鼻に現われる」
 という事は、本来この鼻の静的表現の中に自己の存在的価値を代表する意味がある。もしくは前に掲げました一説「人類文化向上のプライドを標示したいという内的刺激に依って出来た」という「鼻の進化論」なぞと関連しているように思われる。即ち鼻柱出現の第一の使命がその辺にあるた
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