、このデザインを建てた程の芸術家ならば、キットこのスフィンクスの鼻の表現を残しておく事が、永久に人類を鼻の表現に対して無自覚に終らしむる所以《ゆえん》である事を考え得ぬ筈はありませぬ。
ここに於てかその芸術家は、この大作品を当時の埃及《エジプト》王の御覧に供した後《のち》、或る夜|窃《ひそか》に梯子を持って行って、その鼻の表現を自然の作用であるかのように欠き落したのではあるまいかとも考えられます。
いずれにしてもスフィンクスのスフィンクスたる所以は、その鼻の表現が無くなっているところにあります。そこにあらゆる芸術的判断、又は宗教的哲学的の思索を超越した「謎語」としての価値が感得されるのであります。
折れたビナス像の腕を再造するという事は、芸術上の大問題になっております。それ程の文化程度に進んだ現代の人類が、スフィンクスの鼻に対し何等の問題を起こさないという事は更に更に大きな「謎語」ではありますまいか。
スフィンクスは世界の終りまで、鼻を再造してもらう事は出来ないでありましょうか。
クレオパトラ
――運命と鼻の表現(三)
鼻の欠け落ちた大怪像スフィン
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