……。
 ナニ……吾輩が首になった原因を話せと云うのか……。
 ハハハハ。それあ話しても宜《え》え。吾輩としては俯仰《ふぎょう》天地に愧《は》じない事件で首を飛ばされたんだから、イクラ話しても構わんには構わんが、しかしだ。君はホントウに吾輩の云う事を事実と信じて聞いてくれるかね。エエ……?……。
 イヤ。失敬失敬。それはわかっとる。重々わかっとる。君が吾輩を信じてくれる事はトコトンまで疑わんが、しかしそれでも吾輩の休職の裏面に潜む事件の真相なるものが、到底、常識では信ぜられんくらい悽愴《せいそう》、惨憺《さんたん》、醜怪、非道を極めたものがあるから、特に念を押す訳だよ。
 手早い話が、吾輩の首をフッ飛ばした事件の真相を突込んで行くと一つのスバラシイ復讐事件にブツカッて来るんだ。しかもその事件の主人公というのは、吹けば飛ぶような貧乏|老爺《おやじ》に過ぎないのに、その相手というと南朝鮮各道の検事、判事、警察署長、その他の有力者六十余名というのだから容易じゃないだろう。……のみならず、その復讐事件の真相なるものをモウ一つ奥の方へ手繰《たぐ》って行くと、現在、内地朝鮮の官界、政界、実業界に根
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