き当りましたので……」という。「しかしタッタ今聞えたのは確かに爆薬《ダイナマイト》の音だ。ほかに船が居ないから貴様達に違いあるまい」と睨み付けると頭を掻《かい》てセセラ笑いながら「そんなら舟を陸に着けますから一つ調べておくんなさい」と来る。そこで云う通りにしてみると成る程、巻線香のカケラも見当らないから……ナアーンダイ……というので釈放する。
実に張合いのない話だが、しかし考えてみると無理もないだろう。水兵や警官は漁師じゃないんだからね。爆弾船《ドンぶね》の連中が持っている一本釣の道具が、本物かそれとも胡麻化《ごまか》し用の役に立たないものかといったような鑑別が一眼で出来よう筈がない。とりあえず糸《テグス》を引切《ひっき》ってみればタッタ今まで使ったものかどうかは吾々の眼に一目瞭然なんだが……爆弾船《ドンぶね》に無くてはならぬ巻線香だって、イザという時に海に投げ込めばアトカタもない。もっとも生命《いのち》から二番目のダイナマイトはなかなか手離さないが、その隠匿《かく》しどころが亦、実に、驚ろくべく巧妙なものなんだ。帆柱を立てる腕木を刳《く》り抜いたり、船の底から丈夫な糸で吊したり、沢庵漬《たくあんづけ》の肉を抉《えぐ》って詰め込んだり、飯櫃《めしびつ》の底を二重にしていたりする。そのほか、狭い舟の中でアラユル巧妙な細工をしている上に、万一あぶないとなれば鼻の先で手を洗う振りをしながらソッと水の中に落し込む。その大胆巧妙さといったら実に舌を捲くばかりで、天勝《てんかつ》の手品以上の手練を持っているんだからトテモ生《なま》やさしい事で捕まるものでない。何しろ彼奴《きゃつ》等は対州鰤《たいしゅうぶり》時代に手厳しい体験を潜って来ているのだからね。……そこで吾輩はモウ一度、引返して、各道の判検事や警察官に、爆弾船《ドンぶね》の検挙、裁判方法を講演してまわるという狼狽のし方だ。泥棒を見て縄を綯《な》うのじゃない。追っかけながら藁《わら》を打つんだから、およそ醜態といってもコレ位の醜態はなかったね。
ところがここで又一つ……一番最後に驚ろかされたのは、吾輩のそうした講演を聞きに来ている警察官や、判検事連中の態度だ。先生方がお役目半分に、渋々《しぶしぶ》聞きに来ている態度はまあいいとして、その大部分が本当に気乗りがしていないばかりじゃない。何となく吾輩の演説を冷笑的な気分で聞
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