……面白いな……まるでお伽噺《とぎばなし》か何ぞのように、小さな美しい悪魔が、大きな醜い悪魔をやっつけて[#「やっつけて」に傍点]、只の人間になるまで去勢してしまっている。しかも、あんまりやっつけ[#「やっつけ」に傍点]過ぎたために、相手は平々凡々のお人好しを通り越して、何もかも覚りつくした、諦め切った人間になってしまっている。叔父は彼女に対する愛着心を消耗しつくすと同時に、彼女の計画のすべてを覚ってしまいながら、それをどうする事も出来ない立場にいる事をまで自覚してしまっている。
 ……しかし……こうなったら却《かえ》って彼女のために危険な事になりはしまいか。少くとも彼女が叔父に対して警戒している方向は、飛んでもない見当違いになってしまっているではないか……。
 ……面白いな……この結末がどうなるか……。
[#ここで字下げ終わり]
 と心の中《うち》で楽しみながら……。

 その月の中頃の、或る天気のいい日曜の朝早くであった。伊奈子は大急ぎの口調で私に電話をかけたが、それは叔父が三日ばかりの予定で、その朝早く大阪に発ったので、これからすぐにF市から二十里ばかりの処にあるU岳の温泉に行
前へ 次へ
全70ページ中52ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング