るらしいので、しかもその相手が西洋人ではなかったろうかという事までも同時に察せられた位であった。
ところが、彼女のこうした用心深さが物の見事に裏切られたのは、それから一箇月と経たない時分の事であった。
それは十二月の初めの割合いにあたたかい日であった。その前後の一週間ばかりというもの市場《しじょう》が頗《すこぶ》る閑散であったために、これぞという仕事もなく、午後四時過になると店には叔父と私と二人切りしか居ないようになったが、その時に店のストーブの前で、カクテールを飲み飲みしていた叔父が突然に、こんな事を云い出して私をヒヤリとさせた。
「お前はこの頃伊奈子と散歩を始めたそうだな……ウン……それあいい事だ。俺もセッカクお前にすすめようと思っていたところだ。引けあとの電話は、大抵、明日《あす》の朝きいても間に合う事ばかりだからナ……しかし、あんまり夜更《よふ》かしをすると身体《からだ》に触《さわ》るぞ」
これを聞いた時には流石《さすが》の私も、どう返事をしていいか解らないまま固くなって叔父の顔を見た。けれども、その次の瞬間にはホッと安心をすると同時に、又、それとは全く違った意味で驚きの
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