下にいたから、わからなかった筈よ。あすこのマダムはやっぱり朝鮮《おくに》の人で、ズット前から心安いのよ。ロッキー・レコードの支配人の第二号なんですからね。今度の話もあのマダムが世話してくれたのよ」
「驚いた……驚いた……驚いた……」
「まだビックリなさる事があってよ。あの笠っていうお爺さんね」
「可哀そうに、お爺さんは非道《ひど》いよ」
「あの笠圭之介って人を貴方はホントの犯人と思っていらっしゃる?」
「さあ。わからないね。当ってみない事には……」
「そう。それじゃ当って御覧なさい。あの人ならお兄様に対して無暗《むやみ》な事はしない筈ですから……」
「何だいまるで千里眼みたような事を云うじゃないかお前は……事件の真相を残らず知ってるみたいじゃないかお前は……」
「ええ。知ってるかも知れないわ……でも、それは今云ったら大変な事になって、何もかもわからなくなるから、云わない方がいいと思うわ」
「ふうむ。そんなに云うなら強《し》いて尋ねもしないが、しかしそのわかったって云うのは、犯人に関係した事かい……それとも事件全体に……」
「ええ。そう事件全体の一番ドン底に隠されている最後の秘密よ。トテ
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