き》で、大和の国に居る柳仙の親類なんかは一人も寄付かなかったんだから仕方がない。生蕃小僧から怨まれる筋合いなんか一つもないばかりでなく、俺はお前を無事に育て上げるために、生命《いのち》がけで闘わなければならない身の上になってしまった。俺が朝鮮に隠れてピストルの稽古をして来た事を、生蕃小僧が知っていなかったら、俺もお前もトックの昔に生蕃小僧にヤッツケられていたろう。
 ……ところが、それから後《のち》、四五年経つと流石《さすが》の生蕃小僧も諦らめたと見えて、バッタリ脅迫状を寄越さなくなった。彼奴《あいつ》から脅迫状が来るたんびに俺はすこしずつ金を送ってやる事にしていたんだから不思議な事と思ったが、もしかすると自分の怨みが藪睨みだったのに気付いたのかも知れない。それとも病気で死ぬかどうかしたのじゃないかと思うと、俺は急に気楽になって本当の活躍を初め、今の地位を築き上げたものなんだが、その十幾年後の今日《こんにち》になって突然に又生蕃小僧から脅迫状が来はじめたのだ。しかも俺にとっては実に致命的な意味を含んだ脅迫状が……」
「エッ……チョチョチョット待って下さい」
 江馬兆策は感動のあまり真白
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