感に酔いたい恰好であった。
「……仰言れないでしょうね。こればかりは……ヘヘヘ。しかしコチラにはちゃんとわかっておりますよ。ヘヘヘ。お隠しになっても駄目ですよ……あなたのお父さん……だか、赤の他人だか知りませんが轟九蔵さんはその時に、こんなような謎を云い残しておられるのです。そのクレハの結婚の相手というのがアンマリ意外なので俺は全くタタキ付けられてしまったんだ。ほかでもないあの脚本書きの江馬[#底本では「司馬」と誤記]兆策の妹のミドリなんだ。つまり同性愛という奴で、あの女に対してクレハの奴がとても深刻な愛を感じているんだね。俺はこの頃、毎晩仕事に疲れて、アタマがジイインとなって、何もかも考えられなくなっているところへ、クレハの奴が又こんなような飛んでもない変テコな問題を持込んで来やがるもんだから、いよいよ考え切れなくなって君に……つまり私にですね……相談をかけてみるんだが、一体、俺はドウしたらいいんだろう……クレハの奴は幼少《ちいさ》い時から無残絵描きの父親の遺伝を受けていると見えてトテモ片意地な、風変りな性格の奴であったが、その上にこの頃、あんな芝居ばかりさせられて来たもんだから根性
前へ
次へ
全142ページ中52ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング