》けながら轟氏の居間に消え込んだ。あとから松井ヨネ子が、又気絶されちゃ困ると思ってクッ付いて這入るのを、呉羽嬢は見返りもせずに死骸に近付いて、血だらけの白チョッキに刺さっている短剣の※[#「※」は「木+霸」、第3水準1−86−28、122−8]《つか》の処と、轟氏の死顔を静かに繰返し繰返し見比べていた……」
「スゴイですね」
「ウン。流石は探偵劇の女優だね。大向うから声のかかるところだよ」
「冗談じゃない……」
「それから今度は今の奇怪な足跡を、自分の足の下から這入って来た窓の方向までズウッと見送ると、轟氏の魂が出て行ったアトを見送るように恭《うやうや》しく肩をすぼめて、心持ち頭を下げた」
「ヘエ。少々変テコですね」
「まあ聞き給え。それからタシカな足取で二三歩後に退《さが》って轟氏の屍体に正面すると両手を合わせて瞑目し、極めて低い声ではあったがハッキリした口調でコンナ事を祈ったそうだ。……轟さん。妾《わたし》が間違っておりました……」
「妾が間違っていた……」
「ウン……「この敵讐《かたき》はキット妾の手で……」と……それだけ云うと又一つ叮嚀に頭を下げてから傍《そば》に立っている松井
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