を板張に打ち附けて、顔中を血だらけにして、キチガイのように暴れまわりながら哀願するんだそうだ」
「……まあ……何て気味の悪い……」
「……だから綿貫司法主任が、そんならその貴様の苦心というのは何だって聞いてみたら、こればっかりは御勘弁を願います。とにかくそのお芝居ばっかりは、お差し止めにならないと大変な事になります。さもなければ、そのお芝居の初まる前にモウ一度天川呉羽さんに会わして下さい。お願いですお願いですと滅法《めっぽう》矢鱈《やたら》に駄々《だだ》を捏《こ》ねて聴かないのには往生した。死刑囚にはよくソンナ無理な事を云って駄々《だだ》を捏ねる者が居るそうだがね。それにしても何が何だか訳がわからないもんだから、昨日《きのう》から大騒ぎをして僕の行衛《ゆくえ》を探していたところだった……という、その保安課の片山警部の話なんだ」
「まあ……それからドウなすって……」
「僕も何が何だか、わからなくなっちゃったからね。ナアニ、あの脚本はやはりお察しの通り轟さんから生前に聞いた通りの事を勧善懲悪式に脚色しただけのものなんです。それじゃ今から大森署へ行って、司法主任に会って、よく相談して来ましょ
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