に掛けてあった鞭《むち》を取ると、いきなり馬のお尻を力一パイ打ちました。
豚吉とヒョロ子を乗せた馬はヒョロ子にいきなり尻を打たれましたので、ビックリしてドンドン駈け出しますと、間もなく村を出てしまいました。
ところが豚吉は、今まで馬車がゆっくりあるいてさえ落ちそうであったのに、それが矢のように走り出したのですからたまりません。
「アッ。大変。お爺さん、馬車を止めてくれ。落ちそうだ落ちそうだ。助けてくれ。アブナイアブナイ」
とヒョロ子に獅噛《しが》み付きました。
ヒョロ子も一生懸命になって豚吉を落ちないように押えておりましたが、馬車が村を出ると間もなく、そこにあった道のデコボコに馬車が引っかかってガタンガタンとはね上る拍子《ひょうし》に、二人共抱き合ったまま馬車の屋根の上から往来へ転がり落ちました。
馬車屋のお爺さんの方は馬を引き止めようとして一生懸命に手綱を引っぱっていましたので、そのままドンドン駈けて行ってしまいました。
「ああ、危なかった」
と、豚吉はヒョロ子に助け起されながら云いました。
「ほんとに済みませんでした。私がいたずらをしたもんですから」
とヒョロ子はあや
前へ
次へ
全118ページ中9ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング