さ》がらぬ位でしたが、やっと落ち付いて無茶先生に向って、
「これ、黒ん坊の魔法使い。お前は何の怨《うら》みがあって、おれのうちの番頭をあんなに黒ん坊にしてしまった」
 と叱りました。
 無茶先生はその時ニヤニヤ笑いながら、宿屋の主人の顔を見て云いました。
「貴様のうちに泊めてくれないからだ」
「何、泊めてくれないからだ」
「そうだ。だから泊めてくれるまでここを動かないつもりだ」
 と、又白い煙を沢山に吹き出しました。主人はこれをきくと大層腹を立てました。
「馬鹿なことを云うな。おれのうちは貴様みたような生蕃人や、そんな片輪者なぞを泊めるようなうちじゃない。出てゆけ出てゆけ。泊めることはならぬ」
「アハハハハハ」
 と無茶先生は笑いました。
「今に見ていろ。きっと、どうぞお泊り下さいと泣いて頼むようになるから」
「何糞《なにくそ》。いくら貴様が魔法使いでも、おれはちっとも怖かないぞ。出てゆかねばこうだぞ」
 と懐中からピストルを取り出して、無茶先生につき付けました。
「フフン。おれを殺したらあとで後悔するだけだ」
 と無茶先生は落ち付いたもので、又も黒い鼻からと口からと白い煙をドッサリ吹
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