とかえよう。サア、これからお祝いに御馳走をするのだ」
「ヘイ、かしこまりました」
 と、裏口から料理屋の若い夫婦が這入って来ました。
 不意に知らない人間が這入って来ましたので、牟田先生も歌吉も広子もビックリしますと、二人のお父さんは料理屋での出来事を話しましたので、みんな面白がって大笑いを致しました。
「それはよく来てくれた」
 と、牟田先生は料理屋の主人夫婦に御礼を云いました。
「それでは先ず玉葱の皮と葱の白いヒゲと、大根の首と芋の切れ端とでソップを作って、歌吉と広子に飲ませてくれ。そうすると、お腹の中に残っている鉄の錆《さび》がスッカリ抜けてしまうのだ。それから豚の尾と牛の舌と、鶏の鳥冠《とさか》と七面鳥の足で第一等の料理を作ってくれ」
「かしこまりました」
 と、それから料理屋の主人夫婦が大将になって、大勢がかりで火をドンドン起してお料理を作りまして、夜通しがかりで大祝いをしました。
 そうして夜が明けますと、牟田先生や歌吉と広子の父親は料理屋の主人夫婦や雇い人にお金を沢山に遣って帰しました。鍛冶屋のおやじにも遣りました。
 牟田先生と歌吉四人が無事に故郷に帰りますと、村中の人は皆集まって来て、牟田先生を一番いいお客として歌吉と広子の婚礼のやり直しをしましたが、皆二人の姿の立派になったのを驚くと一所に、牟田先生のエライのに感心をしました。
 歌吉と広子はそれから村に居て、両親に孝行をしました。そうして牟田先生を崇《あが》めました。
 牟田先生はこの村に居ていろんな病人を治してやり、自分も大層長生きをしました。



底本:「夢野久作全集1」ちくま文庫、筑摩書房
   1992(平成4)年5月22日第1刷発行
※底本の解題によれば、初出時の署名は「三鳥山人《みどりさんじん》」です。
入力:柴田卓治
校正:江村秀之
2000年5月18日公開
2006年5月3日修正
青空文庫作成ファイル:
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