と、鍛冶屋のお爺さんはふるえ上って見ておりました。
ところが豚吉は焼けも焦げもしません。だんだん赤くなって、しまいには当り前の鉄と同じように美しい火花がパチパチと飛び出す位柔らかに焼けて来ました。
それを無茶先生はヤットコで引き出して、大きな鉄敷の上に乗せて、片手に大きな鉄槌をふり上げて、
「スッテンスッテンスッテン」
とたたきましたので、豚吉の身体《からだ》はだんだん長く延びて来て、当り前の長さになりました。
それから又火に突込んで、焼いて柔らかくしては、又引き出してたたきます。そのうちに豚吉の眼も鼻も口も、身体《からだ》や手足の恰好も、すっかり無茶先生の鉄槌でたたき直されて、ホントに立派な、絵のような美しい人間の姿になりました。
「イヤア。これは不思議だ。あの山男は魔法使いだ。けれども、あんなに鉄のようになった人間をあの山男はどうするのだろう。もとの通りに生かすことが出来るのか知らん」
と鍛冶屋の爺さんは独言《ひとりごと》を云いました。
無茶先生は豚吉の身体《からだ》をたたき直しますと、そのまんま火の中へ入れて、今度はヒョロ子を引きずり出して、鉄敷の上に乗せて、二つにタタき屈《ま》げましたので、ちょうど当り前の人間の長さになりました。それを焼いてはたたき、たたいては焼いて、頭も尻も無い一つの大きな鉄の玉にしましたので、天井裏からのぞいていた鍛冶屋の爺さんは又肝を潰しました。
「ヤアヤア。あんな丸いものになった。人間の鉄の玉が出来上った。あの山男はあんなまん丸いものをもとの通りに生かすつもりか知らん」
と、なおも眼をこすって見ていますと、無茶先生は又も鉄槌を振り上げてその鉄の玉をたたいているうちに、丸い鉄のまん中から頭をたたき出しました。その次には、その頭の左右から両手をたたき出しました。そうしてその下に胴を作り、足を作ってしまいますと、今度は髪毛をたたき出し、眼鼻を刻みつけ、耳から手足の指から爪まで作りつけて、まるで女神のように美しい女としてしまいました。そうしてそれが済むと、豚吉と一所に並べて火の中に突込んで、その上から残った炭を山のように積み上げて、ブウブウ※[#「韋+鞴のつくり」、第3水準1−93−84]《ふいご》を動かし初めました。
初め赤く焼けていた豚吉とヒョロ子は、だんだん白い光りを放つように焼けて、身体《からだ》中から火花が眼も眩
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