が婚礼の晩に逃げた日から二人を探してあるいているものです。そうしてある町へ行って、豚吉とヒョロ子が無茶先生という魔法使いのような上手なお医者に連れられて逃げ出して、それから次の町へ行ってサンザン兵隊や何かを困らして逃げたまま、どこへ行ったかわからなくなったことをききまして、おおかた山へ逃げ込んだのだろうと思いまして、山の中を探しているうち、ある谷川の処で塩の付いた樽をいくつも見つけました。これはきっと無茶先生が、豚吉とヒョロ子を塩漬けにしてここまで持って来られて、生き返らせられたのであろうと思いましたが、それから先は山が深くてとてもわかりませんから、一先ず村へ帰ることにきめて、今帰る途中なのです。ちょうどこの町へ来ました時、私たち二人はあんまり疲れましたので、この町で一番いい料理屋に行って、一番おいしい御馳走を食べようと思ってここへ来たところに、あなたにお眼にかかったのです。ですから、どうぞ隠さずに話をして下さいまし。そうして、その二人の若い男女が私共の児《こ》であるかどうか知らして下さいまし。そのためにあなたがテンカンをお引きになるようなら、私から無茶先生に願って、どんなよいお薬でも貰って上げます」
 と、手を合わせ、涙を流して頼みました。
 これをきくと、料理屋の主人の若夫婦も一所になって、鍛冶屋のお爺さんにお話をするようにすすめました。
「お前さんはその無茶先生とやらにテンカンを治していただいたのだろう。そうして、このことを話すと又テンカンを引くとおどかされたのだろう。けれども、無茶先生が魔法使いでなくお医者なら、そんなことはないではないか。それから、ほかの人には話してわるいかも知れないけれども、豚吉さんとヒョロ子さんのお父様になら話した方がいいのだ。話さない方がわるいのだ。早く本当のことを云って、二人のお父さんを喜ばせてお上げなさい」
 こう云われますと、鍛冶屋のお爺さんもやっと安心をしまして、さっきから自分の家で見たりきいたりしたことを詳しく話しました。
 鍛冶屋のお爺さんの話をきいた豚吉とヒョロ子のお父さんは飛び上って喜びました。
「それこそ豚吉とヒョロ子だ。私たちの大切な子だ。今からすぐに行って会わねばならぬ」
 と、すぐにも出かける支度をしました。それを見ると又、料理屋の若い主人も大変な勢いになって、
「サア。みんな、仕事をやめろ。お客様も何も皆追い
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