《かん》最も警戒しなくてはならぬ事は、その名乗りをあげた保険会社に電話をかけられぬように注意を払う事、云い換ゆれば、未亡人にたしかに渡る時以外に取次に名刺を渡さぬ事だそうな。
 因《ちなみ》にこの行き方は震災前からもあったので、震災後、それが本当の商売化したまでの事である。又、日本で新発明の商売でなく舶来の古物(日本では新しい)である事は、その筋の役人でなくとも、少し外国の事情に通じている人々は容易に認めるところだそうである。

     未亡人の下宿屋

 上流(すなわち金持ち)婦人の秘密は、まだいくらもある。何々夫人、又は何々未亡人の手芸研究所通いの中には随分怪しいのが多い。非道《ひど》いヒステリーの夫人や未亡人が、妙な神様や気合術なぞに凝り固まって音《おと》なしくなったなぞいう例がいくらもある。
 中には、嫌がる亭主を無理に連れ出して、相手の技術者に紹介をする。こうして信用を得た上で、その技術者を自宅に引っぱり込むという式は、こうした婦人連の紋切型の手段である。
 尚《なお》このほかに、金のある未亡人に特に多く行われている方法で、震災後急に殖えたのは素人下宿である。
 これは一つ
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