われて、ピカピカした自動車に乗って去る光景を、近頃の東京人はあまり怪しまなくなった。これも震災の御蔭であろう。
 又近頃、東京には自動車が殖えると同時に、運転手も殖えた。彼等がその乗せた主人の行く先を決して口外せぬという事は、その運転手たる資格の中で最も大切な一つである。しかし彼等の仲間同志には、この秘密が輪に輪をかけて発表されている。

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 彼等自動車運転手連の話に依ると、震災後の東京には、彼等の所謂私設待合が到る処に殖えた。その待合では、普通の待合でも出来ない事が行われる。あんな事がある、こんな事があると、彼等は眼を丸くして語る。その中の一つとして、ここに書く事が出来る話がないのは遺憾である。只、彼等上流人士の最高? 道楽である賭博と性的遊戯……麻酔と昂奮のあらゆる方面に、最近に於て支那式と西洋臭味が加味されて来た事が、運転手の話に依って推察されると云い得るだけである。
 尚、彼等の話に依ると、私設待合には特別なのがある。彼等は、夜半、美人と弗旦《ドルだん》らしいのを乗せる光栄を有した場合に、郊外の人跡|稀《まれ》な処でよく買い物に遣られる。これは真面目
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