げ遣りの自堕落になる。
 いずれも不良の原因である。
 こうして一度傷ついた彼女の心の痛みは、だんだん早い速力を持って彼女を不良の谷に引き落す。

     おいらのせいじゃない

 すべての子女は、親よりも純清な心を持っているにきまっている。それが不良になるのは、家庭と社会の欠陥――即ち大人の不始末からである。
 先天的の不良性でも、それは矢張り数代、もしくは数十代前からの大人の不仕鱈《ふしだら》が遺伝したものである。子女の不良を責める前に、大人は先ずこの事を考えねばならぬ。
 ところが実際は反対に見える。
 子女の不良が或る程度まで進むと、不良仲間から認められると同時に社会からも認められる。親兄弟、一家親族、知人朋友、学校警察まで、よってたかって善良世界を追い出して、不良の世界へ追い遣ってしまう。そうして「おれたちのせいじゃない」と思ったり、云ったりしている。
 言語道断である……。
 ……と、今の不良たちは、また殆ど十人が十人思っている。「おれがこんなになったのは境遇からだ」とか、「すべては運命だ」とか云っている。「おれたちが悪い事をしているのじゃない。世間がさせるのだ」位に心得ている。
 これが又言語道断であるが、事実、そんな錯覚に陥る原因が多いのだから仕方がない。警察で説諭をしても、こんな理窟で逆《さか》ねじを喰わせられる。少年ばかりでない、少女がやるから困ると係官は云う。
 彼等不良少年少女は、だから案外堂々と不良行為をやる。捕まるとウルサイから用心をする位の事である。中には積極的に社会や警察をカラカッテ面白がるのさえある。

     女性の自由解放と虚栄奨励

 本物の不良少女になる順序に二タ通りある。第一は虚栄から始まって万引に移る。その虚栄の本場は東京である。最近の派手な風俗は、一面から見れば狂的の虚栄競争である。その万引心理をそそる品物が全市に満ち満ちている。
 しかし、こちらの話はよく雑誌や新聞に載っているから略するが、こんなのが高じて良心を喪うと詐欺をやり、恐怖心を磨《す》り減らすと恐喝までやる事になる。
 近頃の女学校の個性尊重、自由解放主義も、虚栄を奨励していると見られる。
 若い女性の個性尊重、自由解放は、正面から見れば誠に結構な事であるが、裏面から見ると実につまらないものである。
 極端に皮肉に見れば、東京の女学校――わけても私立の教育方針は、真実に近代思想を理解して、指導的に女性解放をやっているように見えない。反対に、人気取りのためにお嬢さん方の希望と迎合しているかのように見える。だからその結果は、無意味な虚栄奨励、見栄坊許可という事実に堕ちている。
 その結果、彼女達仲間の嫉妬心や羨望心を増長させている。手癖の悪い娘が出来たり、虚栄のために身を持ち崩すお嬢さんが出来たりしている。
 その証拠は新聞の軟派の雑報を見るがいい。又は警察に行って聞いて見るがいい。

     自惚《うぬぼ》れから堕落へ

 少女の堕落の今一つは、矢張り近代思想の誤解から始まって享楽主義に落ちる事である。この世は無意味である。只、享楽だけがある。人生は零である。只、刹那の感興だけしかない。これに対して人間は絶対に自由でなければならぬ……といったような思想を、極めて低級な意味に考えて実行する。
 実は、うぬぼれていい――堕落して構わない――と考えて堕落した事になる。
 今の東京はうぬぼれの大競争場である。あらゆるおめかしの大品評会場である。大抵の風姿《なり》をしても驚かぬ程、その競争は激烈である。
 活動役者の表情の技巧や、近代芸術の線や色彩は、そんなに別嬪《べっぴん》でなくとも挑発的に見える化粧法や表情法を、到る処に鼓吹している。
 そんな研究に浮身を窶《やつ》しているうちに、彼女たちは自分の持っている性の強さ、魅力を知るようになる。又は、女の弱身をそのまま男性に対する強みにする方法を飲み込むようになる。
 これが堕落の初め終りである。
 芝居や実世間のバムパイヤになれる唯一の大道である。
 女学生なら、先生に泣き付いて出欠を胡麻化《ごまか》す。色仕掛で落第を喰い止める。職業婦人だと、会計を軟化させて前借をして逃げる。重役の令息の新夫人に脅迫状を送る……なぞいうのがいくらも暗《やみ》から暗《やみ》へ葬られている。新聞に出ているのはその一部分である。

     泥棒の手習い場

 一方、本物の不良少年も、異性を引っかけるばかりでない。泥棒、詐欺、脅迫なぞいろいろやる。そうしてこの種類になると、極《ごく》軽いのでも本物の不良としてお上《かみ》から睨まれるのである。男女関係のそれのようにありふれていないからでもあろうか。東京市中はこんなあらゆる種類の「不良養成所」である。殊に現在のバラック街はそうである。
 震災後急増
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