で秘密の名前をつける。手紙のやり取りをする。持物や服装を人知れずお揃いにする。これが嵩じて、情死する迄愛するのもある。これは「性」の悩みの不自然な慰め方として憂慮されていた。
その話がこの頃下火になった。異性愛流行の結果、あっても目立たなくなったのか、それとも異性との交際が自由になったために、そんな必要がなくなって減少した者かと、一部の教育家は首をひねっている。
一方に或る私立女学校の舎監であった人は記者にこんな話をした。
――男学生の悪いのは下宿屋|住居《ずまい》で、女学生のいけないのは寄宿舎と、あらかた相場が極っている。その女学校の寄宿舎に来る手紙を、学校によっては舎監が一先ず受け取って、怪しいと思われるのは、秘密に開封した上で渡したり、又は握り潰しているところがある。そうでもしなければ、絶対に学校の風紀は保たれないと云っていい。
その手紙の中には、女文字の男の手紙がいくらもある。封筒だけ女生徒が書いて送ったのもある。その内容を見ると、女生徒が出した手紙の内容を察せられるのもある。そのほかいろいろあるが、中には舌を捲くような名文や、際《きわ》どい告白がある。芸者の内証《ないしょう》話にも負けない位である。
――そんなのの中には、同性愛と認められるのも珍らしくない。震災前より殖えるとも、減っていない事を明言出来る。但、異性関係のそれと比べると問題にならぬ。
私の学校では、上級生と下級生とを、一人か二人|宛《ずつ》組み合わせて一室に入れている。その中で一番上級の年嵩《としかさ》なのを「お母さん」と呼ばせて、一切の世話と取締をやらせる。そのほかの目上の生徒は「姉さま」と呼ばせ、下級生は「何子さん」と呼ばせて、家族みたいな生活をさせている。
ところで、以前、怪しい文句の手紙が来るのは、三年生以上に限られていたが、それも現在の十分の一位で、大抵は同性愛式のものであった。それが今では、三年生以上に来る男の手紙が殖えると同時に、入学し立てのホヤホヤの生徒に迄同性愛が及んで来た。或は小学生時代から持って来た習慣ではあるまいかと思われる節がある。
というのは、或る立派な家庭のお嬢様が、優等の成績で入学しながら、何故か学校に来ない。その両親から沢山の寄付が学校にしてある関係から、学校側でも心配して、内密に欠席の理由を調べて見ると、そのお嬢さんと同性愛に落ちている生徒が、不成績で入学していないからであることがわかった。
そんな例がある一方に、上級生の堕落やおのろけや、落《おと》し文《ぶみ》が、下級生を刺戟しているのではあるまいかと考えられる廉《かど》もあるから、いっその事、同級生ばかりを一室に入れて成績を見てはどうかという意見が教員間に持ち上っている……云々。
この話だけでも、東京の女性の積極化傾向が如何に急激であるかが、充分に裏書されている。
持てる一高と帝大生
麹町《こうじまち》の某署の刑事は、こんな事を記者に話した。
「東京の女学生の好き嫌いは大抵きまっています。明治や慶応の生徒はニヤケているからダメ、早稲田は豪傑ぶるからイヤ。一高と帝大が一番サッパリしていて、性格が純だから[#「性格が純だから」に傍点]つき合いいいと云います。それから、そんな学生の中でも一番好かれるのは運動家で、その次が音楽の上手、演説、文章、絵の上手はその又次だそうです。学生以外で好かれるのは活動俳優で、とても一生懸命です。『日本の男俳優は肉体美がないから駄目』なぞとよく云っています。運動選手を好くのはそんなところからでしょう」云々。
昔の少女はかぐわしい夢のようなヴェールを透して世界を見た。今の少女はそのヴェールをかなぐり棄て、現実界を直視している。
先年、英国皇太子が日本を訪《と》われた時、
「英国の皇《こう》チャーン」
とか何とか連呼してハンケチや旗をふりまわしたはまだしも、本郷付近で算を乱して自動車のあとを追っかけた女学生の群があったと聴いた時、記者はまさかと思った。
ところが、今度上京して見て驚いた。とてもそれどころでない。
式前にふざける花嫁
警察で自由恋愛論をやった女学生があった事は前に書いた。
結婚式の始まらぬ前から婿殿の処へ押かけて、キャッキャと笑い話をした某勅撰議員の令嬢があった。そのほか、式の最中から色眼を使ったり、式が済むと直ぐに倚り添って、ねえあなた式のそぶりや口の利き方をする花嫁が殖えたという某神官の話はまだ書かぬ。
某女学校で震災前に投書箱を据え付けたが、一人も投書するものがなかった。それが震災後急に殖えたはいいが、大部分は仲間同志の不品行を中傷したものであった。最も甚だしいのは、昨年の秋の事、二三十人申し合わせたらしく、性教育の必要を高唱した投書が、しかも堂々と署名して箱一
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