ないんだ。天道様《てんどうさま》と青天井以外に頭を下げる者がないから自然、物事がそうなるんだ。清浄潔白なもんだ。
 吾輩はそうしたルンペン道の代表者である。ユキアタリ・バッタリ映画、オール・トーキー、天然色、浮出し、街頭ローマンスの名監督である。純真|生一本《きいっぽん》の恋以外には取上げない運命の神様である。だからその純真生一本の盲目の恋だったらイツ何時《なんどき》でも引受る。身分が何だ。財産が何だ。名誉が何だ。そんなものは犬に喰われろだ。丸裸になって青天井の下で抱き合えだ。……アハハハハ……と笑い出したら、そこいらで遊んでいた子供連がバラバラと軒の下へ逃込んだ。アハハ。少々キチガイじみていたかな。

     裸体女四五人

 ところで少々腹が北山になって来た。どこかで飯を喰って、将来の方針をトックリと一つ考えてみる事にしよう。何をいうにも羽振学士をナグリ飛ばして、肝腎カナメのUTA《ウータ》を放《ほ》ったらかして万事を絶望状態に陥れて来たばかりのところで、将来の筋書がまだチットモ出来ていないんだから困る。野球なら満塁《フルベース》ツースリーというところだろう。ここで飯を喰って考え
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